Kira's LoveStory*
□それでも僕らは生きていく
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微風が慰霊碑の前に立つ少年の黒髪を撫でていく。
穏やかな風の心地良さに、シンは天を仰ぎ、そっと目を閉じた。
よみがえるのは心に突き刺さる、痛く哀しい記憶…。
けれど、シンの心に憎悪という暗い感情が沸き上がることはもう無かった。
いつからだろう、こんなにも安らいだ気持ちになれたのは。
きっとそれは『あの人』とたくさんの言葉を交わし、思いをぶつけ合ってからだと、シンは脳裏に淡い紫の瞳を持つ人物を思い浮かべた。
(…逢いたい、な)
その想いが通じたかのように突如、風の音に混じり、自分を呼ぶ優しい声が聞こえた気がした。
その声色が今まさに自分が求めていたキラの声だと思えたのは、ただの思い過ごしだろうか。
どこか遠くから響いてくるような不思議な感覚に、シンはもっとよく聞こうと耳を澄ました。
「…ン、シンッ!?大丈夫?」
突然、体を揺さ振られハッと現実に返る。
瞳を開くと目の前に心配そうに顔を覗き込むキラがいた。
「っ...!キラさんっ?!」
いきなりの至近距離で心臓の鼓動が速くなる。
自分の思い過ごしではなかったということか...。
「どうしたの?何かあった?」
そう問われて、変なとこを見られたなとシンは少し照れ臭くなって頭を掻いた。
「いえっ、あの...ただ、風が気持ちいいなって」
「そう?それなら良かった。目瞑ってるから、ちょっと心配しちゃった」
「すいません」
「ううん。...泣いてるのかと思ったんだ」
キラは切ない笑みを零すと再度、大丈夫?と尋ねてきた。
彼はどこまでも優しい人だ。
「......キラさんはどうしてここに?」
「うん。今日は花を届けにきたんだ」
そう言って、キラは携えていた花束を慰霊碑に供えた。
その綺麗な横顔に、花も霞みそうだとシンが見惚れていると、くるっとこちらを振り返ったキラと視線が交わる。
恥ずかしさに顔を赤らめるシンに対して、キラはにっこりと微笑んだ。
「ここ、すごく綺麗だよね。なんか落ち着く...」
「俺もここ好きで、よく来ます」
見渡すと辺りは花畑と呼べるくらいに季節の花々が咲き乱れていた。
キラはそれらを優しい眼差しで見つめながらポツリと呟いた。
「…シン。あの時、ここで君に出会えたのは運命なんかじゃないと思うんだ」
「え?」
「運命じゃなくて必然…そうして僕らは出会った」
「キラさん...」
今でも忘れない鮮やかなオレンジ色の夕日。
そこで出逢うべくして出逢った二人。
己の正義を掲げ、剣を交えて敵対した二人。
けれども戦後、言葉を重ね、お互いの心を癒すかのように寄り添い始めていた。
それは決して同情などではなく、互いに互いを必要としてのこと...。
「…じゃあ、僕はこれで。また逢おうね」
キラはシンの肩にポンと触れると、背を向けて歩きだした。
触れられたところに熱を感じて、それだけの事で鳴りだす心臓にシンは苦笑する。
――ああ、そうだ…俺はこんなにも…あの人が...。