Kira's LoveStory*

□聖夜の奇跡
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――みんなに幸せなクリスマスを



☆*『聖夜の奇跡』*☆



その日はどれだけの人が残念に思っただろう。
雪の降らないクリスマスなんて...。
常ならプラントの気象は全て正確に調整されていて、クリスマス当日の天候も間違いなく”雪”だったはず。
しかし未だ天空から、それらしきものは降ってこないばかりか、雲一つない晴天という有様。
ホワイトクリスマスを楽しみにしていた人達にとっては、異常事態ともいえる出来事だった。
原因は突如起こったシステム障害で、太陽が沈んだ今も復旧の見通しは立っていない。


「あ〜ぁ。雪、見たかったな〜」

溜め息を漏らしつつ、星の瞬く空を眺める少女が一人。

「メイリン、いい加減諦めなさいよ?ほら、早く入るわよっ!」

いつまでも動こうとしない妹の背を押して、歩みを進めるルナマリアも密かに雪を期待していたのだが、ここで文句を言ってもどうにもならず、潔く諦めていた。

綺麗に着飾った姉妹が向かった先は、プラントのシンフォニーホール。
かつて、あの平和の歌姫ラクス・クラインが、その類い稀なる歌声を奏でた場所。
戦後、漸く修復された大きなホールでは、今夜久しぶりに集った戦友たちとのクリスマスパーティーが盛大に開かれるのだ。



「ようこそ皆さん!今宵は心ゆくまで、お楽しみ下さいませ」

桃色の髪をふわりと揺らし、歌姫が始まりの合図を告げると、場内は大勢の人々の熱気に包まれていく。
再会を喜び近況を報告し合う者、時より並べられた豪華なディナーに舌鼓を打ち、奏でられる音楽の調べに聞き惚れたり...皆それぞれにパーティーを楽しんでいた。

先程の姉妹も例外ではなく、仲間たちと他愛もないおしゃべりに花を咲かせていたのだが......。


ルナマリアが料理を小皿に取り分け、さっそく食べようと口を開けた途端、視界の端に捉えた人物に唖然とする。

「どうしたの?お姉ちゃん??」

口を開けたまま固まる姉を訝しんで声をかければ、無言で指差されたその先...。

「あ、シン!?」

遠めからでも分かる、特徴のある黒髪に紅い瞳。
が、そこにいる彼はもはや自分たちの知る彼ではなかった。
蕩けるような笑顔で目前の人物と話し、時より恥じらいを見せる様は正直言って気味が悪い。

あんなシンは知らない...知りたくもなかった...。

「...お姉ちゃん」

微妙な表情で姉を仰ぎ見れば、一言で返される。

「キラさんだわ...」

答えなど既に分かっていた。
シンが態度をころりと変える相手なんて一人しかいない。

戦争が終結しオーブの慰霊碑で出会ったキラ・ヤマトに、シンは以前にも一度面識があったらしく、二度目の再会に「運命だ!!」などと騒いでいたのは記憶に新しい。

「どこにいるのかと思えば......やっぱりね」

かつての同僚の行動力に呆れる。
でも同時に羨ましくもあった。
自分の心に素直なところが...。

「メイリン、私ちょっと行ってくるわ!キラさんとも話したいし」
「えぇ?!シン、怒るよ〜?」
「シンなんて関係ないわ!邪魔してやるんだから!」

でも〜、と引き止めようとする妹を置いて目的の二人がいる場所へとルナマリアは移動を始めた。


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