Kira's LoveStory*

□恋桜
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「...ごめんね、嫌な思いさせちゃったね」
「いえ!キラさんが謝ることないですよ!」

二人並んで、桜の木の下に腰掛けた。
沖合からの緩やかな風が、桃色の花びらを散らしていく。
それをお互い、無言のまま眺めていた。

本当はもっと楽しい時間を過ごすつもりだったのに、予期していなかった人物のせいで気分は最悪だ。
それでも、せっかくのキラさんとの時間を無駄にはしたくないから。
あの男のことは忘れて、努めて明るく振る舞う。

「っと、そうだ!...これ良かったらどうぞ。街で結構、評判のお菓子なんですけど」
「え、貰ってもいいの?」
「はい、キラさんの口に合うかわかりませんが」
「ううん、ありがとう。僕、甘いもの好きなんだ」

そうして洋菓子の箱を受け取りながら、開けてもいい?と尋ねられただけで、どきどきと心拍数があがる。

「うわぁ、美味しそう!」

本当の笑顔には程遠いかも知れないけれど、少しでも明るい表情が見れて嬉しい。
なんだか、くすぐったい気持ちになってキラさんの横顔を窺った。

亜麻色の柔らかそうな髪が風に吹かれ、大きな菫の瞳をちらちらと隠す。

その全てが改めて綺麗だと感じた。

「う〜ん、いい匂い。ね!一つ食べてもいいかな?」
「ええ、どうぞ」
「ありがとっ!はい、シンも」

手渡された一包みのマフィンを受け取る。
キラさんはというと、もうすでに一口食べ始めていた。
子供っぽくて可愛い...なんて言ったら、どんな反応が返ってくるだろう。

「うん、美味しい!しあわせ〜」
「あははっ、キラさん大袈裟だなぁ」
「だって、美味しいんだもん!ふふっ」

俺にとっては、こうしてキラさんと過ごせることが幸せで。
昨日ここで出会えたことが奇跡みたいに思えた。


――出会ったその瞬間から愛しさは募るばかりで、もう狂おしいほどに恋焦がれていた...。


「キラさん...」
「ん?」

そっと、亜麻色の髪に触れる。
初めて触れた髪は想像以上に柔らかくて。

「......花びら、ついてますよ。ほら...」
「あ、ホントだ。桜もそろそろ散り時だね」

...桜が散れば、こうして会うことはなくなってしまう。

――嫌だ、そんなのは嫌だっ!

子どもみたいな感情が、胸の中で騒ぎ出す。

「キラさんっ!」
「ん?」
「桜が散っても...、会ってもらえますか?」

いま自分がどんな表情をしているのか構う余裕もなかった。
後から考えれば、縋るような視線を向けていたのかも知れない。
キラさんは微笑むと、手のひらをポンと頭に置いて撫でてくれた。

「シン君さえ良ければ、また会おう」
「はいっ!!」

嬉しかった。
撫でてくれる優しい手も、微笑みも、陽だまりのように暖かくて。

やっと見つかったんだ、俺の求めていたものが...。

「ずっと、こうしていられたらいいのにな...」

ふいにキラさんが呟き、揺らぐ瞳と視線がぶつかる。


――深い、深い、菫の瞳。

それに囚われたかのように無意識に体が動き、キラさんの頬に手を当てていた。

「?...シン君?」
「...キラ、さん」


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