Kira's LoveStory*
□恋桜
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丘の上に着くと、満開の桜の花びらが風に吹かれ、舞い散っていた。
バイクを停車させ、桜の木の下へ向かう。
(ここに、キラさんは一人でいた)
一体、彼は何を思って佇んでいたのだろう。
シンは腰を下ろし、桜の幹にもたれかかった。こんなにも綺麗に咲いているのに、街からかなり離れているためか誰一人いない。
ここだけ時が止まっているかのようだった。
(静かだ...)
目を瞑れば、そよ風が頬を掠めて心地良い。
暫くそうしていると、車のエンジン音が耳に入ってきた。
(何だ?)
バタンとドアの閉まる音がしたあと、言い争う声が聞こえてくる。
「だからっ!君は来なくていいってば!」
「そんなわけいくか!」
(あの声はキラさん?...と、誰だ?)
そっと桜の幹から顔を出し窺うと、予想どおり昨日出会ったばかりのキラさんがいた。
しかし彼の細い腕は、もう一人の男にがっちりと掴まれていて。
「もう!放っておいてよ!」
必死で抗うも、腕を掴んでいる男はびくともしない。
「ここで誰と会うつもりだ?!」
「誰だっていいじゃないか!アスランには関係ないっ!」
「関係ないことないだろっ!お前のことは、カガリにも頼まれてるんだ!」
「...っ!...帰って、帰ってよ!」
途端にキラさんの表情が強ばり、苦しそうに歪んだ。
その姿が昨日、桜の下に佇んでいたキラさんと重なる。
「キラ!一体、何が気に食わない!カガリを避けて、俺を避けて...!言いたいことがあるなら言えばいいだろう!」
「......」
キラさんは目の前の男から顔を背け、唇を噛み締めていた。
痛々しくて見ていられなかった。こんなふうに追いつめる、相手の男が憎くて堪らない。
何も言葉を返せないでいるキラさんに男は嘆息する。
「...それで?会う約束をしたって奴は、まだ来てないのか?」
「ここにいますが、何か?」
「っ!?」
「...シン君!」
もう我慢できなかった。
キラさんの腕を掴んだままの男を睨みつけながら二人との距離を縮めていく。
「こいつが約束してた奴なのか...?」
「その手、放せよっ!」
キラさんを放そうとしない男の腕を掴むと、意外にもあっさりと放された。
それを訝しんでいると、嘲ったような声が降ってくる。
「どんな奴かと思えば、ただの子供じゃないか」
「...っ!」
馬鹿にされたようで、こんな奴に負けてたまるか!と、闘争心が湧きあがる。
キラさんを背中に庇うようにして、少し背の高い男を睨みあげた。
「シン君は僕に元気をくれたんだ」
「え...」
静かに、だがはっきりと告げられた言葉に心臓が高鳴る。
昨日出会ったばかりで、会話だって二言、三言交わしただけなのに、キラさんがそう感じていてくれたことが嬉しい。
「元気?なんだそれは...。とにかく俺はここで待ってるから、用が済んだらすぐに戻ってくるんだ、いいな」
鼻で笑うかのように言葉を吐き捨てると、男は車の運転席に乗り込んだ。