Athrun×Kira LoveStory*

□1029〜深海の眠り〜
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アスランは受話器を持ったまま、呆然とソファに腰を下ろす。訊かなくてはならないことがあったのに...。否、それよりも今度はいつ、キラの声が聞けるかもわからないのに、一方的に切られた電話に溜め息を洩らす。

(キラ...お前は何を考えてる?)

コチコチと時計の針がやけに耳障りで苛立つ。
もう眠れそうになかった。
外を見れば、月が猫の目のように細く妖しく輝いていた。
今、何時だろう?と時計を確認しようとすると、玄関のチャイムが鳴った。アスランは夜中の訪問者に眉をしかめる。だが、律儀にチャイムを鳴らす侵入者などいるはずもないか。と、しつこく鳴らされるチャイムに仕方なくドアフォンをとろうとした。が、次に聞こえてきた音に内心、舌打ちをした。


ガチャッ―
それは玄関の鍵が外された音。
アスランは素早く銃を構え、息を殺す。

(...漸く、お出ましか)

ザフトのアスラン・ザラ。
彼を知らない者はいないというぐらい、戦争を終結させた英雄として讃えられた存在。自ら望んで得た名声ではないにも関わらず、それを妬む連中が後を絶たなかった。奴らはアスランの周辺を嗅ぎ回り、隙あらば命を狙おうとしていたのだ。

ひたひたと玄関からリビングに続く薄暗い廊下から近づいてくる足音。迎え撃つアスランはリビングの入り口付近に身を潜めていた。そして侵入者がリビングに足を踏み入れた刹那。

ボーン、ボーン、と時代を感じさせる旧式の時計が時報を告げる。
その音にビクリと固まる侵入者。アスランは構わず銃を突きつけた。

「誰だっ!名を名乗れ!」


「!!ちょっ、待って待って!」

慌てふためく侵入者の意外な声に唖然とする。気づけば銃を下ろし、人影に問いかけていた。

「...キ、ラ?」

聞き間違えるはずなどなかった。先程まで電話越しに会話をしていた相手で、何よりも逢いたいと願って止まなかった人...。
急いでリビングの電灯を点けると、懐かしい姿がそこに現れた。

「キラッ!!」

一ヶ月ぶりに見るキラは相変わらず綺麗で。思わず衝動的に抱き寄せる。

「ごめん、いきなりで驚かせちゃったね」
「っ!当たり前だ!」
「うん。ごめんね」

俺の肩にキラが頭を預けてきて、亜麻色の髪が頬を撫でる。それがくすぐったくて、愛しくて。

――ああ、此処にキラが居る。

そう実感していたら、キラが顔を上げた。少し照れたようにはにかんで。

「...誕生日おめでとう、アスラン」
「!??」
「あ、やっぱり忘れてた?」

くすっとキラが可笑しそうに笑う。

「っ...俺はそれどころじゃなかった、お前が帰ってこないんじゃないかと本気でっ!」
「ごめん...、心配してくれてありがとう。でも僕は帰ってきた。アスランのところに」
「ああ、もう二度と離すもんか。今度は俺も連いて行くからな!」
「...うん」

ぎゅうと更にキラの身体を抱き込む。

温もりは確かに今、腕の中に戻った。



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