Athrun×Kira LoveStory*

□1029〜深海の眠り〜
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風のように颯爽と自由という名の剣<ツルギ>を駆る君は、とても気高く美しく、圧倒的な強さを誇る。
だが本来、君の心は繊細で優しく傷つきやすい。

一番よく知る俺が、一番傷つけたのかもな。


1029〜深海の眠り〜



「...っ!」

どれくらい眠っていたのだろう。戦時中の嫌な夢を見て目を覚ました。内容はあまり憶えていないが寝覚めが悪い。
明日は久しぶりの休日で、仕事から帰ってすぐに微睡んでしまったから、こんな夢を見たのだろうか?

アスランは起き上がると、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し一口含んだ。そうして視線だけを窓の外に向ける。

「...キラ」

呟いた声は無意識で、静かな空間に掻き消える。
窓の外は三日月が顔を出し、漆黒の空を仄かに照らしていた。
一人きりの室内。
そこへ突然の電話のコール音が鳴り響く。
こんな夜更けに非常識な...。アスランはふぅ、と溜め息を吐くと受話器を取った。

「...はい」
『......。』

受話器の向こうには確かに人の気配がするのに応答がない。

「もしもし?」
『.........。』
「...誰だ?応えろ」
『............。』

質の悪い悪戯だろうか。
アスランが受話器を戻そうとした瞬間、聞こえてきた声に耳を疑った。


『......久しぶり...』
「キラッ!?」

慌てて受話器を取り直す。

『やぁ、アスラン...』

受話器の向こうでキラの澄んだ声が聞こえる。

「キラッ...お前!!」
『うん、ごめんね...』

連絡しなくて、と謝罪の言葉が紡がれた。

戦後、キラと俺はオーブで一緒に暮らし始めた。変わることのない穏やかな毎日。キラが居るだけで心が癒された。なのに...僅か数週間で二人は離ればなれになってしまう。理由はラクスからの要請で、キラが単独でプラントに赴くことになったのだ。

「すぐ帰るから心配しないで?」と笑っていた彼の言葉はしかし、真実にはならなかった。別れの日から二週間経っても連絡は一向になく、こちらから連絡してもキラに繋がることはなかった。いわば音信不通状態。

直接プラントに行ってラクスに面会を頼もうともしたが、スケジュールが合わず断念する。ひたすら仕事に打ち込んで、ただ彼の帰りを待つ日々が続いた。

『アスラン?』
「......」
『もしかして、寂しかった?』
「っ!バッ、そんなわけ...」

図星なことを言われて狼狽える。声が聞けなかったのは一ヶ月ほど。
たったそれだけだと言われれば、そうなのかも知れないが、俺には永く感じられた。同時につきまとった不安。キラが俺に背を向けて、手の届かない場所へと行ってしまうんじゃないかと。

『そうだよね...でも、僕は寂しかった。アスランが居なくて、寂しかったよ?』
「!」

キラからの甘い告白が耳に心地よく響く。まるですぐ傍に彼が居るようで。もっと感じていたくて静かに目を閉じた。

「...俺だって、寂しかったさ」

声は震えていないだろうか。ありのままの言葉を伝えた。

『ほんと?嬉しいな...。あ、そろそろ時間だ』
「?」
『じゃあアスラン。また、ね』
「!キラッ、待て!まだっ!!」

話したいことがあるのに、無情にも電話はプツリと切れた。



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