Athrun×Kira LoveStory*
□Chase!
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act.4
(うわ、ヤバい...)
キラの放った後ろ蹴りは綺麗な弧を描き、男の鳩尾にヒットしていた。
意識を失い、倒れた男を前にしてキラは狼狽える。
(どうしよう〜まずカガリに説明して...それから、とにかく今は......逃げようっ!)
そうキラが決めた瞬間、廊下側から扉がカチャリと開かれた。
「...っ!」
思わず息を呑んだキラの前に進み出てきたのは今朝、喧嘩した同居人だった。
「良かった、無事だったみたいだな...しかし、見事なものだ」
アスランは床の上でのびているユウナに視線をちらりと向けてから再びキラを見つめる。
「全て監視カメラで見ていたから安心して?これは立派な正当防衛だしな」
「あ...」
どこか他人行儀な言い方にキラは自分が今、メイドの格好をしているのを思い出した。
(アスラン、僕だって気付いてないんだ...)
「とりあえず部屋を出ようか」
そう言って、アスランは紳士的に手を差し出す。キラは少し躊躇ったが、その手に手を重ねた。
二人は無言のまま、広い廊下を歩いていく。キラは彼の少し後ろを手を引かれてついていく。
繋がれた手の平から伝わる体温が心地良くて、キラは喧嘩して家を飛び出してきたことも忘れその温もりに浸る。
でも今、アスランはキラのことをアスハ家のメイドだと認識しているはずで。この温かさが他人に向けられていると思うと少し寂しかった。
(矛盾してるよね...)
アスランと距離を置こうとしたのは自分からなのに、彼の温もりに触れ、こんなにも独占したがる自分が顔をだす。
(アスラン...。君は僕のこと...怒ってる?)
聞きたくても聞けない問いかけを心の奥に呑み込んだ。
モニターに映ったときから確信はしていたが、こうして間近にキラを再確認してアスランはホッとする。変装の為かメイド服やウイッグまで着用しているが、どこをどう見てもキラに間違いない。
けれど、わざと気付かないフリをして声をかけた。驚かせたかったのもあるし、キラがどういう反応を返すか見たかったから。
結果、彼は一瞬動きを止めたものの、素直に俺の手を取り、後をついてきた。本人はバレていないつもりなのだろう。
(俺がお前だと気付かないわけがないのに...)
一体どれほどの時間を共に過ごしてきたことか。見くびられたものだ。
アスランはちらりとキラを窺う。すると彼は瞳を伏せ、どこか気落ちしているようで。長い黒髪のウイッグが余計に物悲しさを演出しているように思えた。