Athrun×Kira LoveStory*
□宝もの
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波の音さえも聴こえなくなった。
その静けさの中で自分の心音だけがどくりと大きく音を刻み、やがて世界が音を取り戻す。
「ア、スラン...」
震えた声に自分が泣いていると自覚する。どうりで目の前のアスランが滲んで見えたはずだ。
「驚かせて、すまない。しかも泣かせてしまったな」
アスランは困ったように笑いながら、キラの涙を拭った。
「今のは忘れてくれていいから」
「嫌だっ、そんな、の...出来ないよ」
「キラ?」
アスランの言葉が何回も頭の中をリフレインしている。
――『俺はキラが好きだ。』
確かに彼はそう言った。それを忘れてくれだなんて出来るわけがない。
宝物の蓋はすでに開けられた後なのだから。
「僕、僕も君が...アスランが、好きなんだ!」
「!っ、キラ...それって、」
「ずっとずっと好きでっ、でも言えなくて...っ」
「......俺もだ。ずっとキラだけを想ってた」
そっと、アスランがキラを抱きしめてきた。その腕の中、キラは彼の温もりに甘える。
あんなにも遠く感じていたアスランが、今自分を抱きしめてくれていることに幸せを噛み締めて。
穏やかに打ち寄せる波が耳に心地よく、二人に言葉はもう要らなかった。
紫と翠の瞳が絡み合い、夕闇の中、二つの影が一つに重なっていく。
それは切り取られた影絵のように美しかった。
end.2008.6.13