無自覚な恋
□無自覚な恋◆1.バレンタイン
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(っ...!うわっ、何考えてんだ俺...)
頭を過った醜い思考を振り払うように、キラの前にチョコレートの入った包みを差し出した。
「じゃあキラは、チョコいらないんだ?」
「......いる」
ぽつりとキラが上目遣いに見上げてくる。
その仕草がとても幼くて、兄とは思えない。
その顔、反則だって。
「ほら、チョコは後にして。まず部屋に戻れって」
「はーい」
チョコを受け取ったキラは、ソファから立ち上がる。が、その体はバランスを崩して、フラッとよろけてしまう。
「あ...」
「大丈夫か!?」
すかさずシンが華奢な体を受け止める。
「ごめん、平気。...寝すぎたから、ちょっと立ちくらみしちゃった」
心配かけまいと微笑むキラに、シンはチクリと胸の痛みを感じた。
兄弟なんだからもっと頼ってくれてもいいのに。
「...キラ」
「え、わぁっ!?」
キラの軽すぎる体をひょいと横抱きにして歩き出す。
「シン?!降ろしてっ、自分で歩けるからっ!」
「遠慮すんなって」
「でもっ!」
「熱あがるから大人しくしてろよ」
「.......」
そっとキラが体から力を抜き、シンに身を任せてくる。
それだけのことがなんだか嬉しくて、シンはくすぐったい気持ちになった。
「...これで良し、と」
部屋のベッドにキラを寝かせて毛布をかけてやると、柔らかな頬を労るように撫でる。
「シンの手、冷たくて気持ちいい...」
「キラの熱が高いんだ。ゆっくり寝てなよ?母さん、帰ってきたら起こすから」
「うん...」
「チョコ、ここに置いとくな」
そう言うと、ピンク色の包みをサイドテーブルに置く。
その様子を眺めていたキラは、ぽつりと小さな声を漏らした。
「...僕も、シンみたいに学校に行けたらなぁ」
「キラ?」
「そうすれば、チョコあげたり貰えたりするのになぁ」
「...じゃあ、早く元気にならなきゃな」
「うん、頑張る。...あ、でも」
「どうしたの?」
「僕、シンみたいにモテないや」
シン、カッコいいもんねー。などと、無邪気に微笑まれたら、堪ったもんじゃない。
「キラも可愛い」
「カッコいいじゃなくて?」
「うん、可愛い」
「むぅ〜」
可愛いと言われて不服そうなキラの額に、シンは優しくキスをした。
幼い頃から続く親愛の証であったはずのキス。
だけど今、この瞬間にそれは確かに形を変えた。
言葉じゃ言い表せない、もどかしい気持ち。
――胸を締め付けるこの気持ちは一体何だろう?
シンはまだ己の気持ちに気づけないでいた...。
end.
up@2007.2.12#改訂2009.4.10