未来へのオーダー

□3.リボンのパスタ
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* * *

キッチンから鼻歌が聴こえ、こちらまで楽しい気分になってくる。
こんな時、一緒に暮らせることの幸せを実感して、シンはくすぐったい気持ちになった。

手料理を作っているキラさんと、待ちわびる自分。
まるで新婚みたいだ!...なんて、馬鹿げたことを考え苦笑した。



「出来たよ〜」

明るい声がシンを呼ぶ。
テーブルに並べられた料理は見た目も完璧で、いい香りが立ちこめていた。

「すっげー美味そうだ」
「ふふ、たくさん食べてね」
「いただきます!」

一口、食べてみると味付けも程良く、シンは感動する。

こんなに美味しい料理なら毎日でも食べたいと思うのに普段、キラがキッチンに立つことは少なかった。

それもこれも全ては今この場にはいない、あのアスラン・ザラという男の所為だ...。
キラが怪我をするといけないからと言って、必要以上にキッチンに入らせないのだ。
そのあまりの過保護っぷりに「正直どうなんだ?」と思ったのは随分前のことのように思う。
今ではそれも慣れてしまっていた。

「すっごい美味いです!キラさん、どこで料理を習ったんですか?」
「ありがとう。料理は母さんから習ったんだけど、シンの口に合ったみたいで良かった」

にこっと笑ったキラはホワイトソースが絡んだパスタを口へと運び、嬉しそうにもぐもぐと食べている。
見ているこっちまで食事が進むような幸せな気分にシンは浸っていた。

(ていうか、マジで新婚みたいじゃんか!!)

心中浮かれまくりのシンはキラの声に現実へと引き戻される。

「シン、カレッジのほうはどう?楽しい?」
「...はっ!ええっ、おかげさまで!」
「そっか、それなら良かった。何か困ったことがあれば遠慮なく言ってね」
「大丈夫です!全く問題ないですから!」

威勢のいい返事にキラはくすくすと笑う。

「うん、シンはやっぱりシンだ」
「え?」
「あっ、ううん、気にしないで」

どういう意味だろう...。
ほっとしたような響きで聞こえた台詞が妙に引っかかった。

「キラさん、それってどういう...」
「えっ、や、あの...そんな深い意味はなくて。シンが元気そうで良かったって話」
「俺、なにか心配させるようなことしました?」

いつもなら軽く受け流せそうな他愛もない言葉がヤケに気になって、シンはどうしても引き下がれなかった。
キラの突然の帰宅にも関係していそうだったから。
もしかして自分の与り知らぬところでキラだけじゃなく、アスランにも迷惑をかけたんじゃないだろうかとシンは急に不安になったのだ。

「言ってください、キラさん」
「ん?...シンは何か勘違いしてるみたいだけど。僕とアスランが残業の時って、シンはいつも一人で食事でしょ?」
「...はぁ、それはまあ」
「それはダメだと思うんだ!」
「は?」
「家族団らんを持たないと子どもは非行に走るんだよ!」

フォークを持った手でテーブルを叩いたキラさんは真剣に言い募る。
どこからそんな話を聞いてきたのかは知らないけれど

(というか、どうせ軍の女性士官のくだらない話だろう...)キラさんの目はマジだった...。

「いや、あの、俺もう子どもじゃないし...。キラさんたちとそう年齢も変わらないんすけど」
「でも!シンは僕が立派に育てるって決めたんだ!」

そんなの初耳なんですけど〜!ていうか、
いつから俺の親になったんですか〜!?と、
脳内で突っ込みつつ、キラの思考回路についていけずに、シンが軽く意識を飛ばしそうになった時、玄関から誰かが駆けてくる音が聞こえた。

「キラァッ!」
「アスラン、おかえり〜」
「おかえりじゃないだろうが!俺に仕事押し付けて何をやっている!」
「?見ての通りだよ」

アスランは肩で息をしながらテーブルに並べられた見事な料理と、それを前に向かい合った形で座るキラとシンを見た。

「お前、このためだけに...?」
「だって重要なことなんだもん!」
「...それはいいとして、どこも怪我はしていないな?キラ」
「うん、大丈夫だよ。アスラン」

アスランがキラの手を取り、見つめ合う二人は甘い空気を醸し出し始める。
慌てたシンは大げさに咳払いをして自分の存在をアピールする。
目の前でラブシーンなど見たくもない。
しかも片方に恋心を持っているのであれば尚更だ。

「ああ、シンいたのか」
「...っ」
「じゃあ、アスランも座って?三人で食事しよう」


こうして俺の束の間の新婚生活もどきは幕を閉じたのであった。

(短かったな〜俺の夢...)



end.
2009.7.28
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