Athrun×Kira ParallelStory*

□花火のように鮮烈に
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初めて母に連れられて行った夏祭り。
幼いキラの目には何もかもが新鮮に映り、にぎやかな祭り囃子に心が躍っていた。

しばらく人ごみを縫うように歩いていると、どこからともなく甘い香りが鼻をつき、キラは母に繋がれた手を引っ張った。

「ねえ、母さん!甘い匂いがするよ?」
「これは林檎飴よ。食べてみる?」
「りんごのあめ?食べるっ!」
「ふふっ、キラは食いしん坊ね」

母はキラを連れて、林檎飴をひとつ注文した。香りのいい林檎飴を前にしてキラはワクワクと瞳を輝かせる。

「待っててね、キラ」

母が財布を出そうとキラの手を離したほんの一瞬、ドーンと大きな音が鳴り響き、夜空に綺麗な花火が打ち上がった。
皆がそれに気を取られていると、花火を見る為に移動し始めた人の流れに、小さなキラは巻き込まれてしまった。

「わっ!?か、母さん!」
「っ!?キラっ!」

次々と打ち上がる花火に夢中な人々は、引き離される親子に目を止めようともしなかった。

「キラっ!...」



***
人の波からようやく抜け出したキラは一人、とぼとぼと母親を求めて歩いていた。
けれど足が向かうのは祭り会場である神社ではなく、その裏にひっそりとある人気のない空き地だった。
さきほどの出来事にショックを受けたキラは無意識に人混みを避けてしまったのだろう。

賑やかな喧騒が遠くに聞こえるが、ここは木々に囲まれていて比較的静かだった。
切り株に腰を落ち着けたキラは、そこでようやく思い出したように泣き出した。

淋しさが涙となって足下の地面を濡らしてゆく。
止めどなく流れ落ちる涙を拭いもせずに泣き続けていたキラは、さわさわと優しい風が木々の葉を揺らす音に耳を澄ました。

誰かの声が聞こえた気がしたから...。


『何故、泣いている...』

反響するかのように耳に届いた声はやはり人の声で。
キラは涙を拭って、声を発した人がどこにいるのか辺りを窺った。

「だれ?どこにいるの?」

『此処だ』

木々がざわめき、旋風が吹き抜けたあとキラの真正面にある、しめ縄が結ばれた大木の幹に誰かが寄りかかっていた。
暗くて顔は見えないが、祭りに来ている人たちと同じように浴衣と下駄を履いているのが分かった。

「何故、泣いている...」

再度、そう問われたキラは母とはぐれてしまったことを話した。

「...なら、俺が母上のところまで案内しよう」
「ホント!?」

キラが瞳を輝かせて喜んだのと同時に、大木に寄りかかっていた人物が目の前に歩み寄って来た。

月明かりに照らされた姿は、その硬い声音や口調に似合わず、見た目はキラよりも少し年上ぐらいの少年だった。

臙脂色の浴衣に肩につくぐらいに伸ばされた濃紺の髪が似合っていて。
そして何よりも白磁の顔に映える宝石のような瞳が煌めいていてキラを魅了した。

「うわ〜キレイだね!」
「綺麗?...可笑しな人間だな」

ククッと笑った少年は小さなキラをそっと抱き上げた。同じ目線になって初めて、キラは彼の頭上にあるものに気づく。

「あ!ネコさんとおんなじ耳がある!」
「...猫ではない、狐だ」
「キツネさん!...ね!さわってもいい?」
「...お前、俺が怖くはないのか?」
「こわくないよ?」

えへへ、と笑ったキラは少年の耳に手を伸ばして、くいくいっと嬉しそうに撫で回した。しっとりした耳は髪と同じ色で、手触りもなめらかだった。

「気は済んだか?そろそろ行くぞ」
「うん!ありがとう!」
「...目を瞑っていた方が良いかも知れない」
「どうして?」
「少し飛ぶ」
「へ?」

ぶわっと二人の回りに風が巻き起こったかと思うと、次の瞬間には夜空を文字通り飛んでいた。

「...っ!」

少年に抱かれたまま、身を硬くするキラ。

「やはり怖いか?なら目を瞑っていろ」
「ううん!こわくないよ!だってスゴい!ぼく、お空を飛んでるんだ!」

興奮したように高い声をあげて、キラは少年の腕の中から眼下に広がる祭りの灯りを眺め、間近で同じ目線に打ち上がる花火に笑顔の花を咲かせた。

「本当に変わった人間だ。...お前、名は?」
「ぼくはキラだよ!」
「キラか...。うん、気に入った。お前を俺の嫁にしよう」
「...ヨメ?それってなぁに?」
「いずれ分かる。それよりもキラの母上はあれか?」

少年はキラを抱えたまま神社の鳥居の上に降り立ち、その下に立ち尽くす女性を指差した。

「あ!母さんだ!すごいね!どうして分かったの?」
「キラと同じ匂いがしたから」

すごい!すごい!と、はしゃぐキラの前髪を掻き上げた少年は額にそっと唇を寄せた。

「キラが大人になったら迎えに行く」
「うん!ぼく、待ってる!またお空に連れてってね!」
「ああ、約束する...じゃあな」

少年はキラを鳥居から少し離れた茂みに降ろしたあと、風を起こしてキラの前から、その姿をこつ然と消した。



「あ...名前、聞くの忘れちゃった」

キラの胸に一抹の淋しさを残して少年は去っていった。
それでも、彼の姿を忘れない自信がキラにはあった。
あんな綺麗な人を忘れるはずがない。
それに、大人になれば迎えに来てくれると約束してくれたから...。

「また、会えるよね...」

キラは少年が姿を消した方角へ祈るように呟いた。


end.
2009.7.19

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