Athrun×Kira LoveStory*
□夜空でダンス
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外はすっかり陽が落ちて、真っ暗な夜空には無数の星が輝いていた。
「似合わないや...」
鏡の前に立ったキラは、淡いベージュ色のフォーマルスーツを着た自分の姿を映して、ぽつりと呟いた。
.*☆夜空でダンス☆*.
オーケストラが奏でる美しい音楽に合わせて、ホール中央では綺麗に着飾った男女が軽やかなステップを踏んでいる。
キラはそれを見ながら、手にしたカクテルを口に含んだ。
(...気分が悪い)
別に体調が悪い訳ではなかったが、この場所に居続けたら心が悲鳴をあげそうだった。
―痛くて、痛くて...。
美しくドレスアップした女性に微笑を向けながら踊る君。それを目にする度、胸の痛みが増していく。
―僕はいつから、こんなにも脆くなったんだろう。
キラはふらふらとバルコニーに出ると、夜風にあたり瞳を閉じた。
今日、5月18日はカガリと自分の誕生日で。
カガリが一緒に祝おうとオーブ官邸に隣接するホールで、バースデーパーティーを開いてくれた。
戦時中の仲間が集まっての賑やかな会。
みんなに祝ってもらうのは嬉しいし、感謝もしている。
―だけど本当は...。
「キラ?」
呼びかけられた声にハッとして振り向くと、そこにはさっきまでホールで見事なダンスを披露していたアスランが立っていた。
「どうした?気分でも悪いのか?」
「...アス、」
近づいてくるアスランはスーツをビシッと着こなしていて、とても似合っている。
これでは女性が放っておかないのも頷ける。
アスランとダンスを踊るために、どれほどの女性が列を作っていたことか。
「少し風にあたってただけだよ。それより、ダンスの相手は終わったの?まだ君を待ってるんじゃ...」
「キラが気にすることはないさ。俺はキラがここに来るのが見えたから来たんだ」
「え...」
「一人にして悪かった」
そうして優しい手が前髪をかきあげ、額にキスが降ってくる。
「誕生日おめでとう、キラ」
「っ...アスラン、ありがとう」
どうして、いつもアスランは僕の心を見透かしてしまうんだろう。
あれほど苦しかった胸の痛みは無くなって、代わりにドキドキと鼓動が音を刻みだす。
「くすっ...ネクタイ、歪んでるぞ」
「へっ、あ...」
「貸して」とアスランの長い指がネクタイを器用に結び直していく。
「これで、よし。そういえば、スーツ着てくれたんだな」
「だって、アスランがプレゼントしてくれたものだから。......でも、変じゃない?」
「どうして?すごく似合ってるよ、可愛い」
ちゅっ、と唇に掠めるだけのキスをされ鼓動が増していく。
なんだか照れくさくて、ふふっと笑みを浮かべるとアスランは僕を抱きしめてくれた。
「あ、アスラン、誰かに見られちゃうよ」
「構わないさ」
バルコニーに出る扉は閉じられているが、いつ誰が前を通ってもおかしくない。そんな状況にも関わらず、アスランは抱きしめる腕を解いてはくれない。
だけど、この温かな腕から出たくないのも事実で...。
ホールにはいまだ緩やかな音楽が流れ続けていて、そのメロディーはバルコニーにも届いていた。
「キラ、踊ろうか?」
「えっ、や、無理!僕、踊れないもん!」
「大丈夫、俺がリードするから」
そう言って、アスランが手をとってステップを踏み出す。
僕はアスランについていくのが精一杯で。でも楽しくて幸せな気持ちになっていく。
「アスランって、すごいな」
「ん?」
「ううん!僕、本当はね。アスランと踊る女の子たちに嫉妬してたんだ。笑っちゃうでしょ?」
「いや?俺はそんなキラが見れて嬉しいけど?」
「!っ...」
一気に熱が顔に集中していくのが、自分でも分かってしまって恥ずかしい。
「...僕、茹でダコみたい?」
「ぷっ、あははっ...」
ステップを止めて笑い出したアスランにつられて、僕も笑ってしまう。
―楽しいな、こんな小さなことでも...
―君がいるだけですごく幸せ。
end.
2008.5.16