無自覚な恋

□無自覚な恋◆1.バレンタイン
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キラが大事だ――


だってそれは、俺のたった一人の兄だから当然で。
何より、病気がちな兄を守れるのは自分だけで。

ううん...違う...。
そうじゃなくて......。
なんだろ、これ。

こう、胸がざわざわする感じ...。


  ×無自覚な恋1×

学校から帰宅すると、いつもは自分の部屋で寝ていることの多い兄が、珍しくリビングに居た。
だけど、やはり体調が良くないらしくソファで横になっていて、瞳も固く閉じられている。
テレビはつけっぱなしで、画面には夕刻のニュースが流れていた。

(ったく、何やってんだキラは...)

シンはソファに近寄り、窓から差し込む夕陽に照らされた兄の顔を覗き込んだ。
苦痛の表情はないものの、少し呼吸が荒い。

「キラ...」

そっと額に手を当てると、思っていたよりも熱くて心配になる。
キラは生まれつき体が弱く、すぐに熱を出しては病院に行っていた。
近頃じゃ学校にも、まともに通えていない。
詳しいことは分からないが、一般的な人と比べて免疫力が弱いらしい。

「キラ、部屋に戻ったほうがいいよ」
「......ん、...シ、ン?」

やんわりと肩を揺すると、長い睫毛が震えキラが目を覚ます。
熱が高い所為か瞳が潤んでいて、シンはその揺らめく紫水晶から目が離せなかった。

「あ......僕、寝ちゃってたんだ...。おかえり、シン」

キラは目を擦りながら上体を起こして柔らかく微笑む。

シンはその熱っぽい体を支えながらも、もう一度優しく諭した。

「キラ、部屋で休みなよ。連れてってやるから」
「うん、ごめん。......あれ?シン、その包みは何?」

リビングに無造作に投げ出された通学鞄から、ピンク色の可愛らしい包みが覗いていて。
シンの持ち物にしては違和感のあるそれに、キラは興味を示したようだ。

「ああ、これ?これはチョコだよ」
「...あ、そっか。今日バレンタインだもんね!...もしかして彼女から?」
「違うって、単なる義理。欲しかったらキラにやるよ」
「いいの?でもシンが貰ったものだし、なんだか悪いな」
「いいって俺、チョコあんま好きじゃないし」
「もぅ〜シンってば、そんなこと言って。チョコあげた子が可哀想だよ」

そうやって、会ったこともない奴のことを気にかけるキラは誰に対しても優しくて。
それが時々、無性に苛々する。


――幼い頃からずっと、キラを守ってきたのは自分なのに...。


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