未来へのオーダー

□3.リボンのパスタ
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赤い西日が部屋に差し込んできて、もう夕方かと読んでいた本を閉じる。
アスランさんから借りた機械工学の本は興味深くて、時間が経つのも忘れてしまっていた。


三人で暮らすようになってから、俺はカレッジに通わせてもらっている。
アスランさんとキラさんはオーブ軍に在籍したまま戦後復興に尽力していて、時折プラントへ上がってザフト軍にも顔を出しているみたいだ。

二人に養ってもらうのは悪くて、最初は俺も軍で働くと言ったのだが聞き入れてもらえず。

キラさんから「シンにはカレッジでいろんなことを学んで欲しいんだ」と微笑まれれば、ノーとは言えなかった。
だって、きっとキラさんもカレッジに通いたかったはずなんだ。
戦争なんか起こらなければ、普通の学生生活を送っていたのだから。


そういう経緯で、二人の好意を素直に受け入れて勉学に励んでいる。
もともと勉強は嫌いじゃないし、学ばねばならないことは山ほどあったから。


(喉、乾いたな...)

腰をあげると、飲み物を取りにキッチンへ向かう。
冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのボトルを取り出したところ、玄関のドアが開く音がした。

「ただいま〜」

その声にキッチンから顔を出せば、いくつもの買い物袋を抱えたキラさんがいて、あれ?と今日の予定を頭に浮かべる。
今日は残業になるからアスランさんと食事を済ませてくると聞いていたのに...。

「キラさん?今日は遅くなるって...」
「ああ、うん。後はアスランに任せてきたから」

あっけらかんと言い放たれた言葉に、アスランさんは今頃どうしているのだろう。と、思わず同情してしまった。
いつもなら二人仲良く残業のはずなのに今日に限ってどうしたというのだろう。

「アスランさんだけで大丈夫なんですか?」
「大丈夫!シン、今日の夕飯は僕が作るからね」

にっこり笑ってキラさんが宣言するのを呆然と見つめて、はたと我に返る。

「キラさん、料理できるんですか?」
「あ〜!シン、僕のことバカにしたでしょ!」
「いや、だって...」

三人で暮らし始めてからというもの、食事はほとんどアスランさんが作っていたし...。と、
言葉には出さずにいたものの、なんとなく言いたいことは伝わったようで、キラさんがちょっと拗ねたように唇を尖らせた。

「僕だって料理ぐらい出来るんだから!」
「はあ...」
「これから準備するからシンは待ってて」
「は?え?いや、俺、手伝いますけど...」
「いいから!僕に任せて!」

ぐいぐいと背中を押されてキッチンから追い出される。

手持ち無沙汰になった俺はキッチンから続くリビングのソファへと腰を下ろして、何気なくテレビをオンにした。
ここならキラさんの様子をさり気なく窺えるから。
それに、何が理由で一人だけで帰ってきたのかが知りたかった。
別段、怒っているようには感じないし、喧嘩ってわけでもなさそうだ。


...でも正直、悪い気はしなかった。

だってキラさんの手料理が食べられるんだから。



2009.7.12
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