宝物@
□よろずの欲に狂う
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「来る…なっ……。」
自分の意志とは裏腹に思うようにならない体を引きずって、蛮は駆けた。
絶望に塗りつぶされた部屋は、まるで真四角の箱のようだった。窓一つなく、あるはずのドアさえも壁に埋め込まれたかのように確認出来なかった。部屋にあるものといえば、大きすぎる程のベッド一つ。
「蛮ちゃん。どうして逃げるの?」
「来るなっ。」
逃げられないとわかっていても、ヒタヒタと心に迫る恐怖に追い立てられるように、蛮は逃げずにはいられない。
叫んだ拍子に足はもつれ、部屋の隅に前のめりに転がった。
鉛のように体が重い。
霞む視界の先で、結ばない焦点が辛うじて銀次の姿を描き出す。
「薬…効いてきたみたいだね。」
夢の世界で感じた痛みは、どうやら現実のものらしい。
蛮は悔しそうに唇を噛み締めた。
「本当は、薬なんて使いたくないんだよ。でも、蛮ちゃんはこうやって逃げようとするでしょう?」
「…ったりめぇだ。」
「俺ね。随分、我慢してきたんだ。ずっと前から蛮ちゃんを閉じこめて俺だけのものにしたかったんだよ?」
「俺は俺だけのもんだ。誰のモノにもならねぇ。」
「そうやって、蛮ちゃんはすぐ言うよね。いくら待っても、いつも答えは同じだった。」
薬で体の自由が奪われても尚、光の失わない瞳が銀次を睨み付けた。それを冷たく見下ろしていた銀次の口元に、微かな笑みが浮かぶ。
「だからね。蛮ちゃん。俺、我慢するの止めたんだ。」