宝物@
□魅惑のfruit
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蛮ちゃんの機嫌がよくない。
やっぱり、あれが原因かな?
神の記述の力が消えたか確かめたくてマンホールに落ちちゃったから?
それとも、電線に引っ掛かって電力会社の人に怒られたから?
あとは、赤屍さんが出て来て、またこうやって入院するハメになったから?
どれも、心当たりがあり過ぎて原因がワカリマセン;
「蛮ちゃんも果物食べる?」
「いらね。」
病院のご飯だけじゃ足りなくて、みんなが持ってきたお見舞いの果物を食べ始めた俺。
面会時間どころか、消灯時間までとっくに過ぎてるけど、どうやって言い含めたのか、付き添いって事で、蛮ちゃんはここに泊まるらしい。
シーツも毛布も用意されてる隣の空いているベッドに行く気配もなく、パイプ椅子に座って明後日の方向を眺めいるだけ。
リンゴ一個を食べきり、ブドウをむぐむぐと食べ始めていると、ふいに蛮ちゃんが言った。
「やっぱ、俺にも少し分けろよ。」
「うん。いいよ。」
房ごと掴んで蛮ちゃんに差し出す。
でも、蛮ちゃんは受け取ろうとはしなかった。
「皮…。」
「え?ああ。はいはい。」
もう、人使い荒いなぁ。
そう思いつつ、俺はブドウの皮を剥いて、指で摘んで差し出した。手で受け取るのかと思ったら、蛮ちゃんの口が近づいてきた。
「ば、蛮ちゃん!!」
俺の指ごとブドウを口に含んだのだ。
指先にじんわりと広がる生暖かさ。唇の柔らかな感触。
白い歯が果肉を奪うと、名残惜しむ指先に別れを告げるように、滑らかな舌が撫でながら立ち去った。
「んっ。あま……。」
濡れた唇が煌めいて、俺は思わず唾を飲み込んだ。
「蛮ちゃん。それって、誘ってるの?」
「どう、見える?」
怒ってた事など微塵も感じさせない妖しげな微笑み。
人の心を惑わす、そんな綺麗な笑顔を向けられたら…。
「誘ってるように見える。」
「じゃあ。そうなんだろ?」
一層妖しく微笑んで、濡れた唇が重なる。
差し入れられた舌からは、甘いブドウの味がした。