宝物@

□to one's hand
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「『あれ』を燃やして下さい。父が作った『あれ』を、世に出してはいけない。」

ある日、ホンキートンクを訪れた依頼主は、顔面蒼白でそう訴えた。




森の奥深く、蔦の絡まった一軒の研究室。

傾いた扉を壊して入ると、廊下一面に書類や研究道具が散らばっていた。
その散乱ぶりに、研究員達の慌てふためく姿が想像出来るようだった。

「手分けして探すぞ。銀次。広いから迷子になるなよ。」
「ううっ。わかってるよ。蛮ちゃんこそ、気を付けてね。」
「ばーか。俺は、お前程ドジじゃねぇよ。一時間後、またここに集合だ。いいな?」
「オッケー。蛮ちゃん。」

二人は、薄暗い建物の奥へと駆け出した。




「『意志をもった植物』?」
「ええ。ブドウ科ツタ属のつる性の落葉性木本を改良して作られた植物です。私たちは『モンスター』と呼んでいました。」
「けど、意志を持った植物なんて、珍しい話でもないだろ。」
「え?そうなの?」

重い雰囲気に場違いな明るい声。
蛮がぎろりと睨み付ける。

「1996年、ウソ発見器の専門家クリーブ・バックスター博士が植物にウソ発見器を接続して、植物が反応を示したって話は有名だぜ?」
「へー。それで、その『モンスター』はしゃべったり、動いたり出来るの?」
「ばーか、そんなの出来るわけが…。」
「出来ます。」

蛮の言葉を遮って、依頼主がきっぱりと言い切った。

「話す事は出来ませんが、自分の体の一部である蔦を自在に動かす事が出来るんです。父は、その蔦によって絞め殺されたんです。」
「嘘だろ?そんなものがあるわけが。」
「けれど、現実に作ってしまったんです。意志を伝達する細胞を強化し、植物に電子頭脳を埋込み、自らの意志と力を持った化け物を…。」

依頼主はそこまで言って、顔を手で覆ってしまった。
眼裏に蘇った『モンスター』に怯えているように、体をガタガタと震わせている。
到底、嘘を付いているようには見えなかった。

『奪還』の趣旨とは違うように思えた依頼だったが、依頼主の尋常ではない姿を見ていると、無下に断る事は出来なかった。
こうして、二人は『モンスター』によって奪われた依頼主の平穏な日々を奪還しにやって来たのだ。
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