宝物@
□Gebet
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どうか私のことを
その記憶の片隅にでも留めておいて。
Gebet
もしかしたら他にも方法があったかもしれないと考えたら切りがなかった。
この子の手を離さず傍にいてやりながら守ってやると言う方法が。
祖母から尋ね訊いた方法は、高くそびえる城の頂を目指して私が贄となることだったけれど、あの時の私はただ我が子を守りたいと願う男だったから。
だから後悔なんて言葉を知らずにいた。
けれどそれでも今私の目の前に立つのは満身創痍の息子以外に他ならず、あぁどうして来てしまったのだと吐き出せもしない苦悩を私は胸中に抱いた。
何故来てしまったのだと問い掛けてしまいたい。
失われた時を奪り還さずとも人は生きて往けるだろう。
だが幾らそう思っても片意地を張る我が子は幾らあがいても私の血を分けた子で、だからこんな場所に来たのも自分の我を徹す為なのだと理解が容易いから逆に手が掛かる。
やはりお前は私の子だと。
私が此処にいる理由は、他でもないお前に会う為だった。
お前の為に、お前だけの為に、私は利己的な周囲の手に掛かるくらいならと自ら命を抜き取って。
例え妻がそうでなくとも、この世に我が子を愛さない親などいる訳がない。
私も、選択した道が本当は正しくなくともお前の為なのだと正しく思い込んで、お前の知らぬ所でずっと愛していたよ。
私の子。
子の出来にくい正統魔女の血を引く私の暗い道筋に、たったひとつの希望を残してくれた子供。
例え全ての真実を知らないお前でも、知らなくても良いことがあると私自らの手で教えてあげたかった。
私は愛していた。
お前のことも、始めは愛し今はお前を恐れ続けている妻のこともちゃんと。
心から愛していたよ。
それを今、伝えられぬ私を恨めばいい。
何も知らぬからこそ後々傷付くのかも知れないけれど、それでも今は、私の視界が開いている内は。
気丈なお前の姿を私に見せておくれ。
昔、妻に対して伸ばした手を振り払われそして縋りたくても縋れなかったあの時のお前に、手を伸ばし、抱えて守ることの出来なかった私だけれど、お前のかつては雨に濡れたその髪も、雪のように白い真綿の頬も、魔性を宿した瑠璃色の瞳も、慈しむべき優しい手も繊細な心も全て。
今でも変わらず愛しているから。
どうか気付かないで。
今目を覚ませば離れがたくなる。
どうか今はまだ、安らかに眠っていて。
まだ幼かったお前が眠る小さなベッドの中、そう願いながら最後に覗き込んだ寝顔はとてもあどけなくて。
夢の中だけでもせめて妻と共に在れることを祈りながら私はもう最後となるだろう口付けを額に贈り、別れを堪えたあの夜を思い出しだしながら私は微笑を称えるから。
「大きくなったな」
泣きたいときも傷付いたときも
傍にいれないような
そんな無力な父親だったけれど。
それでも私は愛していたよ。
そしてこれからも限りなく遠い場所から。
愛しているよ、蛮。
私の愛しい子。
Pupille von Purpleの裏壱様から頂きました、父の日小説ですvv
もう、何てゆうか…切なすぎです…っ!!蛮ちゃんを愛しているのに、運命ゆえに傍にいることが叶わなかったパパン…。美しい文章から蛮ちゃんに対する愛が伝わってきて胸キュンしましたvv
裏壱様、素敵な小説ありがとうございました☆