桜の花弁
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「…この事は、俺から聞いたということも誰にも言うのではないぞ」
「わかってます」
「ほんの一月前まで、ここには井吹龍之介という者がいた。井吹は武家の生まれでありながら、剣術一つまともに出来なかった。」
「武家…ってことは親が武士だったってことですよね?なのにどうして剣を扱えなかったんですか?」
「井吹は武士を嫌っていたのだ。」
本当はそのことについて聞きたかったけど、何かしら理由があるのだと思い、あえて聞かないことにした。
「それで…?」
「そこで俺は井吹に剣術を一から教えていたが…。今の冬里のように稽古を投げ出していた。俺が部屋まで入っても、全然参加する気がなくてな」
「私と同じ方がいらっしゃったんですか…」
まぁ確かに、斎藤さんの稽古は厳しすぎで誰だって投げ出したくなるはずだから、井吹さんの気持ちがとてもわかる気がした。
「しばらくして井吹は新選組を離脱したが、今度はあんたが稽古を投げ出している。まるで、また井吹がここにいるみたいでな…」
「そうなんですか…」
だから斎藤さんはああやって不思議な表情をしてたんだ…。
「寂しいんですか?」
「そういうわけでは…」
「じゃあ、私が井吹さんに似てて嬉しいんですか?」
「それは判らぬ」
でも毎日の表情からして、そのどちらかなのは明らかで…。
―――――