読み物の部屋

□陽だまりの思い出
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「バルス・・!バルス!」

 激しく揺さぶられ、跳ね起きる。
 体中が、汗に濡れていた

「バルス!大丈夫?すごい うなされてたよ」

 青い瞳が心配そうに覗き込んでいた。
 あたりを見回して
 その凄惨な光景が今、ひとまずこの場の現実で無いことに安堵を覚える。

「・・・うん・・・・
 ・・ ちょっと
 悪い夢を見ていたんだ・・・・」
「そんな感じだったよ。 うん
 眠ってるから起こさないほうがいいかなって思ったんだけど、あんまり苦しそうだったから」
「ん
 ありがとう。カムル。
 起こされなかったら・・・・」

 きっと 結末まで見ていた。
 再び あの恐怖を味わうことになっていた

 いくらぬぐっても消えない痛み

 心の

 傷―――

 頭をかかえて苦しそうにする様子に
 カムルは心底困ったように、手を差し伸べる。
「ねえ バルス。大丈夫だよ。
 夢だもん。ここには何も怖いことなんてないから。
 魔物が襲ってきたって、強い戦士の兄さんたちが守ってくれるから安心だよ!
 それにボクだっているし!」
 ぎゅっ と
 抱きしめてくる腕が温かい。

 モンスターの襲撃に、生まれた町を奪われて、早3ヶ月が経とうとしている。
 ここは、ベレーネの城下町。
 春の日差しがやわらかく、草の上では子供たちが無邪気に駆け回っている。
 銀細工の髪を、その光に照らされて、暗い面持ちのままに、バルスと呼ばれた少年は瞳を閉じる。

「おーい!カムル!そんなやつにかまってなんかないで、早く魚つりに行こうよ!」
「早く。早くカムル!」
 駆け寄ってくる二人の少年。
「うん!ね、バルスも行こう!」
「えーっ。カムル、俺やだよ。そんなやつ
 ほっとけばいいじゃん。いっつも暗い顔してさ。
 折角誘ってやったのに全然俺たちと一緒にいようとしないしさ」
「・・・ ・・・」
 ふい と。
 顔をそむけた。
「何言ってるんだよ。バルスはまだこの町になれてないだけなんだから!キミらだって、全然違う町に行ったら、すぐになんかとけこめないだろ?」
「いいよ。・・カムル。
 行ってよ。
 僕も、ひとりでいたいんだから・・」
「バルス・・ 大丈夫なの?
 ほんとにひとりでいたいの?」
「・・うん。読みたい本もあるし。家に帰る」
 明らかに不機嫌な顔で答えると
 彼は、困ったように微笑んで
「そっか・・・
 残念だけど・・
 じゃ、また誘いに行くね。何かあったら何でもボクに言ってよ!ボクで力になれることがあるなら
 キミの力になりたいから!」

 そう、言って 走り出す。
「おーいっ!
 今行くよーっ」

 太陽に、溶けてゆきそうな、輝き。
 日差しのような、きらめきが
 彼にはあった。
 
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