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□act.2
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テトラの意見で決行はパレードの前夜に定められ、それに向かって綿密な打ち合わせが繰り返された。

「やっぱり、わたしの言った通りパレードに合わせたのね」

「いえ、合わせてませんし、前夜ですので」

「でも、前夜から警備が手薄になるだろうって予想したからでしょう?」

「それ、まだ言ってるんですか…違いますよ」

席を立ったテトラは窓際のデスクに行き、何かを手にして戻って来た。

「パレード当日にこの人物が、ダグラス邸を訪れるという情報があります」

目の前に置かれた顔写真に、思わずルナは小さく声を上げる。

「…あっ!」

そこには裏社会で名の知れているマフィアのボス、ライト=ノストラードの顔があった。

特別マフィアに精通しているではなかったが、ノストラードの娘が珍品コレクターである為に、ターゲットの周囲には度々彼の名が浮上していた。

ルナ達の仕事はあくまでスマートな窃盗で、派手に殺傷し強引に盗み出すやり方は避けたいし、何より彼女にそんな戦闘能力はない。

少しばかり軽い身のこなしと、筋肉自慢の一般的な警備員の腕をへし折るくらいの力しか持ち合わせていないのだ。

当然、マフィアとか某旅団のような物騒な連中とは関わりたくない。

ノストラードがわざわざパレードの日を選んでダグラスの主を訪ねる理由は、騒ぎに乗じて目的を攪乱する為としか考えられないとテトラは言った。

「例えば、」


公に出来ない何かを、買収するとか――



「まずいわ!あれがノストラードの手に渡ったら、ますます盗み出せなくなる」

買収した闇の地図を地下競売に出品するのか、娘のネオンに与えるのかその行き先は不明だが、どちらにしろ今より状況が悪化するのは間違いない。

「セキュリティー云々より遥かに厄介ですからね、今手に入れなければ次はないでしょう」

「プレッシャーかけないでよ」

「チャンスは一度切りですよ」

「鬼!」



喚いてはみたものの、ルナも充分過ぎる程分かっていた。

これまで怪盗と呼ばれ資産家から疎まれる存在ではあったが、それはやはり綿密な計算と勝算を見込んだターゲットの選択、更には現場での状況判断(ほぼテトラによる)であって、決して無敵な訳ではないのだ。

「よし、気合いを入れる為に新しい仕事服を買って来るわ」

「またですか?」

「何事も形から入るのよ」

「まあ、それで仕事がうまくいくなら、5着でも10着でも買って来て下さい」

「い、行ってきまーす」

財布と携帯を小さなバックに放り込んで、サンダル履きでルナは出掛けて行った。




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