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□act.8
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買って来たものを玄関に放り出すとルナはリビングに駆け込んだ。
「テト!大変なの!!」
「…どうしたんですか?」
連絡がない事で何事もなかったのだろうと安心していたのか、パソコンの前に座るテトラは呆気に取られている。
「いまっ…今ゾルディックが…」
「イルミ=ゾルディックですか?会ったんですか?」
「そ…殺される…っ相談…!」
「落ち着いて下さい」
走って来た息切れと頭の混乱で、主語のないルナの言葉は意味不明だ。外で何があったか分からないが、無事帰宅した事でテトラは冷静だった。
「喋れるようになったらお願いします」
座ったまま深呼吸してルナはコンビニを出た時からの事を順に話す。
「そうですか…」
「あの尾行もやっぱり…」
「うーん…前回の尾行者の動きでは、殺しが狙いの可能性は低いと思っていたんですが…」
「同じ人じゃないのかも…いっぱい居るのかも」
「ないとは言えないですね」
「何で?地図が欲しいんじゃなかったの?」
「一番の目的は地図でしょうね。でも、地図を所有していた僕たちはやはり消したい存在でしょう」
「僕たちってわたしだけじゃない…」
「現時点では。ここが知られれば僕も同じです」
はあ、とルナはため息を吐いた。地図は絶対に手放したくない。殺し屋を雇って仕向けてくる奴には特に。けれどテトラは地図さえ無くなればと思っているのではないか…そんな気がした。
「地図…渡しちゃうの?」
「いいえ」
きっぱりと言ったテトラにルナは驚いて顔を上げた。常に危険を懸念して来た彼らしからぬ言葉だ。
「地図を渡しても多分殺されるでしょうから。受け渡しの際には多少なりとも接触しなければいけないリスクがある。足が着く危険を冒してまで取引するでしょうか?殺し屋を雇う程の相手が、そのまま僕たちを生かしておくとも思えません」
「じゃあ…ゾルディックにお願いする…?」
「そちらも危険はありますがそれしかないですね。向こうもビジネスですから、意味もなく殺される事はないでしょう。ただ…」
「ただ?」
言葉を切ったテトラをルナは見上げる。口元に手をやった彼は考え込むように黙ってから、視線をルナに戻した。
「彼が雇われた殺し屋なら僕たちはアウトです」
「けどっ…もしそうならさっき殺されてたし…」
「ルナが単独犯とは限りませんからね。地図に関わった仲間を全て始末しようとするなら、僕たちが揃っている時の方が仕事が一度に済む」
確かに彼は仲間に相談する事を勧めた。事の成行きとして不自然はないのだが、そうなれば全てが訝しく見えてくる。
「えっ…どうしよう、もしそうだったら…」
「彼程の殺し屋なら、“姑息な嘘をつかずとも仕事をやり遂げる”とも思いますし、“仕事の為なら嘘も厭わない”とも考えられます。まあ、僕は会った事がないから分かりませんのでルナが決めて下さい」
「ええーーっ!?」
そんな大事な選択を投げ出すなんてどうかしているとしか思えない。今まで事細かに指示を出して来たのに、過去最大とも言える決断を放棄するなんて。テトラの頭の中はどうなっているのかと、疑っているルナに彼は笑顔で言った。
「大丈夫。ルナは人を見る目ありますから」
信じます、という言葉に少しじんとしたが、それは僅か数秒の感動だった。
「僕と組んでいるんですから当然です。ないとおかしな話です」
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