melt
□act.7
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翌日ルナは一人で買い物に出掛けた。
人混みの中にテトラはあまり行きたがらず、一緒に外出する事は稀だ。仕事の役割も在宅なので、引きこもりになっちゃうよ!と誘ったが、しなければいけない仕事があるとの事。
事前準備はテトラに任せっきりなので、そう言われたら逆に気が引けてしまう。
今日は新しい下着と抱き枕とたまねぎを買う予定だった。変な組み合わせだけれど必要だから仕方ない。
順番的に下着が先で帰りに家具屋とスーパーに寄ろうと、ルナは地下鉄に乗って街へ向かった。
わざわざ街まで来たのは雑誌に掲載された下着が欲しかったからで、ルナは目当ての店に急いだ。
(うわ…混んでる)
店内は女性客で溢れ返っていて、いつもはきれいに陳列された商品がワゴンの中で団子になっていた。
これでは店員も何がどこにあるのか把握していないだろう。それ以前にレジだけで手一杯の様子。
まるでバーゲンのような戦争の中、押されてもがきながらもルナは何とか目的の物を掴んだ。
(Gカップ…!)
ポイと放って自分のサイズを探す。
(あった…!)
漸く見つけたそれを、奪い取られないよう胸に抱いて長いレジに並ぶ。会計を済ませ何とか店を出た。
店の前には男の人が何人か居て、退屈そうに携帯を弄ったりしている。きっと彼女は戦争中なのね、とルナは脇を通り抜けた。
途中でピアスを一つ買っただけで、ルナはすぐ地下鉄に乗り込んだ。あと二カ所寄らなくてはいけないので、あまりゆっくりもしていられない。テトラは今も仕事をしているのだから、さすがに夕飯の支度はさせてはいけないと思っていた。
地下鉄からホームに降り立った時、何か違和感を感じた。同じ駅で降りた他の乗客の動きが自然ではないと思ったのだ。
ルナは前を見たまま階段を進み、改札を抜ける際にカードを裏にして入れた。
当然扉がバタンと出て来て進路を塞がれ、ピンポンと音が鳴り響く。
機械を開けてくれる駅員に謝りながら、ちらりと周囲に視線を走らせた。
やはり、尾行されている。
通りすがりに振り向いたとしても普通は一度だけだろう。僅かではあったが二度振り返ったように見えた。加えて足元に見られた動揺。
努めて立ち止まらない様に歩を進めていたが、地下鉄を降りる時の忙しない歩測と現在のそれは同じ人物のものとしては些か不自然であると思えた。
改札を抜ける間際にルナはポケットから小型マイクを出し、素早く首元に装着した。ホームには都合よく隙間風が吹いていて、寒さを避けるような仕草でコートの襟を立てる。
「テト、尾けられてるみたい」
尾行者からの死角を狙って小声を出せばすぐに反応が返った。
『ルナ、今どこですか?』
「地下鉄のホーム、家からすぐの。警察ではなさそう」
『まずいですね…』
テトラは珍しく指示を迷っている。今も尾行者は後ろを歩いていて少しの沈黙が長く感じた。
『撒けますか?』
「念を使えば…」
『能力を知られては駄目です。そうですね…相手が入って来られない場所にまずは行って下さい』
「そんなとこ…どこだか…」
『落ち着いて下さい。人目に付いて女性以外は入りにくいところです。トイレでも店でも沢山あるはずです』
ああ、そうだ。先程の下着屋でもそうだったように男性は店の前までしか来られない。仮に中まで入ったとしたら目立って仕方ないだろう。尾行者がそんなリスクを侵すとは考えられない。店の前か裏口さえ警戒していれば見失わないと考える筈だ。
『人目の少ないトイレは駄目ですよ。押し入って来ないとも限らない』
「怖い事言わないでよ…!」
もうホームを出て地上に上がってしまった。視界の隅に公園のトイレが入るが、そのまま通り過ぎる。
出来るだけ家に近付きたくない心理から普段と反対側の出口から出た為、この近辺はあまり詳しくない。
(下着屋さん…なんてあったかな…)
冷や汗が止まらない中、前方にピンク色の建物が見えた。
「テト、産婦人科がある…!」
『そこに入って下さい』
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