御伽噺1(蔵馬メイン小説)

□月が照らす場所
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彼らと出会っていろいろあった。
暗黒武術会、魔界の穴、魔界統一トーナメント、霊界のテロ・・・
彼らと共にいることで何よりも満たされた気持ちになった。
出会えた事が奇跡。
そう思う度、自分には勿体無い人生だったと思う。
これ以上何を望めというのか・・・
そんな事わかっているのに、今の自分は驚くほど生に対して欲深くなっていた。


「あれから5年か・・・」


最初のトーナメントから5年。
魔界は驚くほど落ち着いている。
二度目のトーナメントには行かなかった。
あの頃のように自分の力を求められるようなことはもうないだろう。
では、ここまで自分を生に執着させているものは?
蔵馬にはわかっている。
彼らの存在。
自分を楽に死なせてくれないだろう彼らの存在。
自分の死は少なからず彼らを傷つけるだろう。
どうしようもないくらい馬鹿正直な彼らだから・・・


「記憶を・・・消すか・・・」
「誰の記憶を消すんだ?」
「!!」
「本当に気づいてなかったのか。あきれたぜ。」


いつも彼は突然やってくる。
そして自分自身それを何よりも求めている。
しかし今日は・・・今は素直に喜べない。


「誰の記憶を消すつもりなんだ?」
「・・・貴方の・・・って言ったらどうします?」


まんざら嘘でもない質問を正直にしてみた。
ちょっとしたイタズラ心。
でもそこかで切実に受け止めようとしている自分もいた。


「くだらんな。」
「え・・・?」


腕を強く引かれバランスを崩したその体は自分より小さな体にあっという間に組み敷かれた。
それと同時に明るかった視界が暗くなる。
なぜだろう・・・いつもは嬉しいはずの彼の行為が今の自分にはたまらなく痛い。


「・・・んっ・・・」
「なんて顔してやがる・・・何があった?」
「・・・・・。」
「蔵馬、お前が俺の記憶を消すつもりならそうすればいい。
だが、俺は何度でもお前を探し出すぜ。」
「飛影・・・」
「相手が悪かったな。俺は簡単に貴様を忘れてなどやらん。」


泣きそうになった。
それを見られたくなくて蔵馬は飛影の首に腕を回して抱き寄せた。
彼の言葉は蔵馬が望んでいた何よりも優しかったから。


「貴方のことが・・・好きです。」


見られたくない涙も快楽のせいにしてしまえば自分も彼も満たされる。
今は何もかも忘れて、ただただ彼に溺れよう。
蔵馬は自分のもてる全てを彼に差し出した。





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