御伽噺1(蔵馬メイン小説)

□想ヒ全テヲ貴方ニ捧グ。第六章
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飛影がいつものようにパトロールから帰ると躯が部屋を訪れた。
躯は椅子に座らされた蔵馬の肩にポンと手を置いて小さく微笑んだ。


「今日浦飯が来た。今度人間界で花見をしようとの事だ。」
「花見?」
「人間界では春になると花を見ながら酒を飲むそうだ。
幻海の屋敷に来いだとよ。
お前を元気づけようとしてるんだろ。」
「・・・・・。」


人間界は春なのか・・・飛影は蔵馬を見た。
記憶の中の春は、咲き乱れる花達の中で蔵馬が綺麗に笑っていた。
こいつのいない春等知らない・・・
飛影は蔵馬の髪を撫でた。


「お前も行くのか?」
「・・・まだ決めてない。人間界にも行った事がないしな。いい所か?」
「・・・少なくとも、こいつが好きだった場所だ。」
「そうか。」


それならばうまい酒を手配しておこうと言い残して躯は部屋を出て行った。
椅子に座った蔵馬の顔をそっと自分に抱き寄せる。
出会ってから毎年一緒に庭の桜を見ていた。
だがいつからか庭の桜も枯れ果てた。
それでも春は必ずどこかへ行っていた。


「今年の桜も綺麗だろうな。」


その言葉に蔵馬は答えなかった。



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