御伽噺1(蔵馬メイン小説)

□遠い未来の物語
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それは遠い未来の話(飛蔵)


『妖狐はね、一生に一度、その一生が終える時に自分の命を炎に変える事ができるんだよ。』
『命を?』
『うん、狐火って言うんです。』
『そのままの名前だな。』
『あ、信じてない顔だ。』
『そんな迷信信じない。大体、妖狐なんてお前以外聞いた事ないからな。』



彼と出会って1000年・・・そして今、彼の命は終わった。
美しい姿のまま、あの日の姿のまま、彼の一生は終わりを告げた。
冷たくなった体を腕に抱いたまま、飛影も動かなくなった。

「よう。」
「浦飯か。」
「どうだ、飛影は。」
「あのままだ。あの日のまま、部屋に閉じこもっている。」
「蔵馬の体は?」
「大変だったぜ。あいつが手放そうとしなかったからな。狐が植えた桜の下に埋めた。」
「人間界じゃ桜の下には死体があるってよく言うんだ。なんだかなぁ。」
「もうすぐトーナメントなのに、あの戦闘馬鹿がピクリとも動かないときたもんだ。」
「しょうがねぇよ。俺も蔵馬の死は堪えたからな。」
「俺より先に死ぬなんて、馬鹿な狐だぜ。」

幽助は見たことも無い程悲痛な表情の躯を瞳に映していた。





「蔵馬・・・」

彼の名を呼ぶ。
しかし、ずっと隣で笑っていた彼はもういなかった。
彼の母親が亡くなって約1000年弱。
ずっと共にいた。
その彼はもういない。
生まれて初めて愛した人、そして一生愛する事を誓った人。
もういない。

「蔵馬・・・」

皮肉にも愛しいその名前を口にする度に、彼の存在が無くなった事を実感させられる。
今まで流したことのなかったぶんの涙が一気に溢れ出てきたかのように止まらなかった。

「蔵馬・・・」

『飛影・・・』
「・・・・・。」
『飛影・・・』
「蔵馬・・・?」
『生きて。』
「お前がいないのに・・・生きてなんかいけない。」

聞こえるはずのない声に、俺ももう駄目かと思いながらしれでも返事をする。
夢でも幻でもいいから、愛した者を感じたかった。

『こうなる事はわかってたはずです。』
「・・・蔵馬。」
『はい?』
「俺は・・・こんなに弱かったんだな。たった一人の死さえも耐えられない。」
『・・・・・。』
「お前の死だからだ。」
『・・・・・。』
「お前が・・・全てだった。」

頭に響く声にその想いを告げる。
今更もう遅いのに・・・伝えたい相手はもういないのに・・・

『貴方がいなくなってしまったら、俺を愛してくれた人は誰もいなくなってしまう。』
「・・・・・。」
『それこそ俺の全てが消えてしまう。』
「なら・・・」
『飛影・・・』
「なら俺は何だ!?俺を愛してくれたお前がいなくなった今、誰が俺を愛してくれると言うんだ!?」
『飛影・・・』
「俺の全てだったお前がいなくなった今・・・俺の存在も無いに等しい。
お前が死んだ時に俺も死んだんだ。」

瞬間、自分の内に熱を感じて飛影は瞳を開いた。
しかし目を閉じていたからこそ聞こえていると思ったその夢の中での声は、変わらず飛影の内に響いてくる。




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