御伽噺1(蔵馬メイン小説)

□月が照らす場所
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「そろそろ来るころだと思っとったぞ。」


審判の門の奥の一室。
普段めったに使われる事のない資料室。
数本の蝋燭の炎が二人の影を揺らしている。


「確認したいことがあります。」
「・・・お前の予感は間違っていない。認めたくはないがな。」
「そうですか。」
「わしがきくことではないかもしれんが・・・蔵馬、どうするつもりだ?」
「どうもしませんよ。」
「しかしそれでは・・・!!」
「こうなる事はわかってました。
でも今更他の肉体にのりかえる気なんてありませんよ。
例えそれが・・・」
「死を・・・意味してもか?」


それまで揺らぐ事のなかった深緑の瞳に一瞬変化があった。
『死』という言葉がそうさせた。
今まで何度も身近に感じたそれが、今は正直恐ろしい。
自分のその変わりように蔵馬は自嘲気味に笑った。


「覚悟・・・してましたから。」
「蔵馬・・・わしは霊界の長だ。代理だがな。
しかしこれから話すことはあくまでわし個人の意見として聞いてくれ。
お前の体を冷凍保存してさえいれば後々再びお前の魂を戻す事ができるのだぞ。」
「あの時の師範のようにですか。」
「・・・・・。」
「あれは俺達が優勝した時の願いだったからです。
それに、自分の父を訴えてまで霊界を担っている貴方にこれ以上荷を背負わせたくはない。」


霊界の統治者の表情が悲痛なものになる。
自分の権力をもってすれば今目の前にいる男を救う事ができるのに、その権力をもてる立場がそうさせてくれない。


「しかしそれでは・・・!」
「そんな思いをさせてしまってすいません。でもこれは俺が決めたことなんです。」
「蔵馬、一つだけ教えてくれ。昔のお前ではなく、今のお前に問う。
本当に死を選ぶのか?生ではなく、死を・・・」
「・・・・・。」


閉じられた緑と沈黙が何よりの答え。
泣いている。
本当は生きたいと・・・死にたくないと泣き叫んでいる。
目の前の男を強く抱きしめて、コエンマは自分を呪った。
無力な自分を呪った。





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