薔薇の記憶(過去作品)

□時空を越えて(過去連載)
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『近寄ってはいけないよ。あの子には私達にない力があるんだ。』
『きっと取り殺されてしまうよ。』
『あの子は可笑しい。きっと妖に違いない。』
『そうじゃなかったら呪われてるんだ。』

(どうして?僕の何がいけないの?僕何もしてないのに・・・)

『恐ろしい・・・恐ろしい・・・』

(僕は・・・僕は・・・狐じゃないの?)

『近づくな。お前等いなくなってしまえ。』





「・・・らま・・・くらま・・・」
「・・・・・。」

その声を聞いて、自分が蔵馬だという事を思い出した。
肩を揺する手は強く、けれど優しかった。

「うなされていたぞ。夢を見たのか?」
「・・・昔・・・」
「・・・?」
「まだ俺が・・・人間界にいた頃・・・ただの狐だった頃の夢を。」
「・・・うなされるような夢だったのか?」

無言で先を促す飛影に従い、ぽつぽつと蔵馬は自分の過去を語りだした。
誰にも言ってなかった妖狐になる前の事。
まだ自分が人間達の平安の世を山から見下ろしていた頃の事。
飛影は驚いた。
初めて聞く彼の過去があまりのも意外だったから。
なぜ意外だったのか・・・彼が幸せな狐だったと聞いたわけではないのに・・・
恐らく、今現在の彼自身がそう連想させていたのだろう。
飛影は気づいてやれなかった自分に少し悔やんだ。

「仔狐の頃から力がありました。睨むだけで相手の動きを封じたり、気絶させたり。
ある日他の仔達とじゃれていた時にそれが出た。自分でも知らなかった。」
「・・・・・。」
「それからたちまち化け物扱い。狐以外の動物達も近寄らなくなった。
山の中で一匹・・・まだ獲物を自力で捕る事も難しかった。」

だんだん俯いていく蔵馬にたまらなくなって、飛影は肩を抱き寄せた。
驚きで蔵馬の体が一瞬硬くなったのがわかった。
けれど飛影はかまわず髪を撫でた。

「・・・で?」
「え・・・」
「その先は?」
「・・・・・。」

聞いてくれるのか・・・
普段から飛影は優しい。少なくとも自分には。
いや、自分はそう思う。
だけど今日はいつになく・・・
蔵馬は少し戸惑いつつ先を続けた。



ツヅク


2006.2.5の日記より。
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