ぬら孫

□京都2
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昔、一匹の女性の姿をした妖狐がいた。美しく長い髪に、白く柔らかな肌。甲斐甲斐しく主に仕える姿を見れば誰もが欲しいと思うほどで。
しかし、ただ一つ…その妖狐は罪を犯していた。

主である妖怪ではなく、別の…しかも人間に惚れてしまったのだ。

人間と交わり子を成してしまった妖狐は、自分の力を分け与えることなく、普通の子のように育てた。
しかし、妖狐としてそれは許されない。本能が普通にあるべき幸せを否定する。

結局、その自分の罪に耐えられなくなった妖狐は、主の妖怪との間にも子供をつくった。まだ妖怪としては幼い出来損ないの妖狐を残して、妖狐はこの世を去る覚悟をしたのだった。


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「狐ノ依、さっきから何を考えてる?」

これから羽衣狐の元へ行くというのに、狐ノ依は心ここに非ずといった感じでソワソワしている。リクオの問いにも、小さくなんでもないと言うだけで、なんだかパッとしない。

「狐ノ依…鴆と何か話したのか?」
「は…え?いえ、別に何も」
「…オレの目を見な」
「はい…?」

じっと目を見る。その目はしっかりとリクオを映しているのに、何故か少し遠くを見ているようで。それが何故だかはわからないのに、リクオは不安になった。

「狐ノ依、戦えるか?」
「はい、勿論です!」
「なら余計なことは考えんな」

きょとん、と目を丸くして、それから狐ノ依は自分の口を抑えた。

「ごめんなさい!その、思い出せそうな…なんていうか、気になることがあって」

狐ノ依の考え事。ようやく自分でもぼんやりしていた理由に気付いた。
鴆の腕に抱かれたことなど今日が初めてのはずなのに、その腕は懐かしくて。気にすることなどないようなことなのに、どうしてか気になって仕方がなかったのだ。

「申し訳ありません…」
「いや、そんな顔すんじゃねーよ。ただ、もう少し気合い入れてくれ、な」

相手が相手な状況なだけあって、リクオはぴりぴりしていた。それがわからない狐ノ依ではない。耳を下げて、本当に申し訳なさそうにして、狐ノ依は自分の頬を強く打った。



弐條城に近づく。それにつれて不穏な空気が張り詰める。
リクオが踏み込むと、待ち受けていたかのように京妖怪が飛び出してきた。

「行くぜ」

リクオはふっと笑って、妖怪をなぎ倒した。奴良組のほかの妖怪たちもそれに続く。

「京の魑魅魍魎ども。オレたちとてめぇらの大将とは四百年分の因縁がついちまってるみてぇだが…この際さっぱりと、ケジメつけさせてもらいに来た!」

自信に満ちたリクオが一人城の中へと足を進める。
その背中を追って行こうとした狐ノ依の体に、何か嫌なものが走った。




「っ、何…?」


振り返って、それから周りを見て。そこに、青白い炎が浮いているのに気付いた。暖かい、ふわふわとした感覚に引き寄せられる。
リクオの傍を離れていることに気付かず、無意識にそちらに足が動いていた。







「馬鹿な子」

声に体がびくっと震える。途端に意識が体に戻ってきて、きょろきょろと辺りを見渡した。当然リクオの姿は見えないし、他にたくさんいた奴良組の妖怪たちからも離れていて、誰も見当たらない。戦いが始まっているとは思えないほど、静かな場所にいた。

「…誰?」

身構えた体は、後ろから優しく抱きしめられていた。

「久しぶり…大きくなったなぁ」
「放せッ!」

振り払って、掴まれていた腕を掴み返す。そしてその妖怪を確認した狐ノ依は言葉を失った。

「…妖狐…?」
「そーだよ。自分以外の妖狐を見るのは初めてか?」

風になびく長い髪を手で梳きながら、妖狐がニッと笑う。鏡に映った自分を見ているかのように、よく似た存在。

「ずっとこの日を待ってたんだぜ…?可愛い俺の弟」
「弟…!?」
「なぁ…どんななんだ?力を与えられてるってのは」

ぐっと腕を引かれて距離が縮まる。首に鋭い痛みを感じ、狐ノ依は妖狐の体を押し返した。

「は…美味しいな、さすがは本物の妖狐の血ってか」

口元についた血を舌で舐めとりながら、にやりと笑った妖狐はずいぶんと色気がある。似ているのに、大人っぽいのはやはり兄だからなのか。

「なんで、何を…?」
「何をって…お前を殺したいんだよ」

恨んだものを見る目が狐ノ依を見ている。本当に恨まれている。狐ノ依には何がなんだか全くわからなかった。兄だということも信じがたい上、何故恨まれているのかも全くわからない。

「その、ボクには何が何だか…」
「あぁ、そりゃそうだよな。お前が腹にいるうちに…殺したんだから」
「え…?」



二人の妖狐の親。人間を愛してしまった妖狐。人間との間に産まれてしまった妖狐は、自分の親が何をするつもりかすぐに察した。
そして親を憎んだ。出来損ないに産まれた自分を放って、もう一匹の方に自分の力を分け与え死のうとしている。それがどうしても許せなかった。

腹の子を任せられる妖怪の住む場所を探して徘徊する親を、妖狐は自らの手で殺した。この親と、父親違いの自分の兄弟…彼らがいなくなれば、自分が本物の妖狐になれる、そう信じて。



「待って、それ…なんの話?ボクは生きてる」
「そうだな、生きてる。だからこうして再会出来たんだろ?」
「だってその話…」
「どこぞのお節介が腹の中からお前を取り出したんだろうよ」

腹から取り出された、として。そのとき既に親が死んでいたなら。

「ボクは何故リクオ様の元に…?」
「知るかよ。ま、そのおかげで俺は因縁の相手がいる京都を目指したんだがな」

奴良組に妖狐が、そう聞いて相当衝撃を受けた。まさか生きていたとは。奴良組は京妖怪とは因縁の関係にある、その情報を手に入れるのはそう難しいことではなかった。

「俺は…俺を完全な妖狐にしなかった親に復讐するんだ…」
「どういうこと…?」
「奴良組と羽衣狐がぶつかる日を待ってたんだよ」

わざわざ奴良組の因縁の相手のいる京都に向かって、いつか強くなった弟と一対一で戦う日が来るのをずっと待っていたのだ。

「俺を捨ててお前を産んだ…。お前を殺すことで、俺が妖狐として認められる」
「捨ててなんかない、きっとあなたは愛されてた…」

本当に兄弟だというなら、同じ親から産まれたわけで。だというなら、親に育ててもらった妖狐のことを単純に羨ましいと思ってしまう。そう思った狐ノ依の心を、妖狐は感じ取った。

「親に愛されて育った俺が羨ましいか?」
「…うん」
「俺には…屈辱でしかなかった…!」
「でも、本当に愛した者同士の間に産まれたんでしょ?ボクは羨ましいよ」
「は、愛?そんなの必要ねぇ!」

戦う気のない狐ノ依の体に妖狐が飛びかかった。

「なぁ、力見せてみろよ!」
「ぁ、う…っ」

首にかけられた手が呼吸を遮る。本気で締め付けてくるその手から逃れるために、狐ノ依は畏を解放した。咄嗟に妖狐は狐ノ依から体を離したが、呆れたように大きくため息を吐く。

「ふーん、その程度」
「嘘…!」
「やっぱり、お前の主は羽衣狐様には劣るってことかな」

余裕の笑みを浮かべている妖狐の手が狐ノ依の肩を掴んだ。そのまま押されると、狐ノ依は尻もちをついて倒れ込む。その狐ノ依の体の上に妖狐の体がのっかった。

「もっと苦労するかと思ったのに…簡単に殺せそ。つまんねぇじゃん」
「そんな、こと…言われても…」

狐ノ依はまだ、今の自分の状況について行くことが出来ていなかった。どうしたら良いのかわからないのだ。目の前にいる妖狐は恐らく敵なのだろうが、初めて会う同族の存在。戦う気になど、なれるはずがなかった。




この辺から、話難しくて混乱。
しかもオリジナルとか設定甘いせいでもっと混乱。
意味わかんない感じになっていたらごめんなさい。

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