NARUTO

□共に
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戦争が終わってから一月経った。

暫くは変わってしまった景色に愕然とする者が多かったが、それも随分となくなっただろうか。
里の復興、外への任務、動ける者は働くし、新しく建て直されたアカデミーも開校されている。


「はあ…」

賑わいを取り戻した木ノ葉の里で、ナナは一人ベンチに座っていた。
しっとりと濡れた髪を乱暴にかき上げて天を仰ぐ。
今日も復興の手伝い。目の前に立っている建物も、ついさっきナナが建てたものだ。

「…」

前かがみになり、自分の足に乗せた腕で頬杖をつく。
戦争が終わって、平和を取り戻して。ゆっくりと物事を考える時間が増えたせいか、ナナは思い悩んでいた。
最近はずっと別行動をしている、彼らとのこと。


『ナナ、今日もオレ達外の任務に出てくるってばよ!』

今朝もそう。元気よく駆け寄ってきたナルトが、ナナの背中を叩く。
その後ろには眉を下げて笑うサクラが立っていた。

『また出るのか』
『おう!ってナナこそ、また手伝ってんだろ?』
『まあな』

お互いに「また」と思わず口にする。
それほど日々やることはそう変わらず、けれど確実に前進していた。

『…サスケは?』
『サスケ君は、また暫くはいろいろ聞かれるみたいで』
『そうか…』

その中で、サスケの姿はまだ見れていなかった。
暁と少しでもともに活動したサスケの立場は、今はまだあまり良くないのだ。
それを分かっているからサクラは少し寂しそうで、けれどその分ナルトは前向きに振舞っているように見える。

『今だけだってばよ。サスケは、もうオレ達と同じ意思を持って戻ってきた』
『…そうだな』
『わかってるわよ。きっとすぐ、第七班再結成!ってね』

ぐっと拳をつくって微笑むサクラに、ナルトも安心したように笑う。
図らずも先の戦いではナルトとサスケ、そしてサクラとが共闘した。
その活躍を知る者も多く、サスケの復帰の話は決して理想論ではなかった。本当に、すぐにでも戻ってくるだろう。

『んじゃ、行ってくるってばよ!』
『気を付けろよ』
『ナナこそな、無茶すんなってばよ』

ナルトの目は一瞬ナナの背後へと向けられた。
そこにはナナが木遁を使って建てた小屋がある。

『ナナ、最近すげぇってよく聞くけど、その分疲れてんだろ?』
『そうですよ、カカシ先生がいないからってそんな闇雲に』
『カカシは関係ねーだろ』

軽い冗談をサクラが挟んだものの、まだ心配そうに眉を寄せるナルトは、ナナへと手を伸ばした。
そして頬へと滑らされたナルトの手が、静かにナナの汗を拭う。

『ちゃんと疲れたら休まなきゃダメだってばよ』
『…ん』

こくりと頷く。けれど大丈夫だ、とは返せなかった。
この里で今木遁を使えるのは自分だけ。それが枷となり、支えとなっている。


ナナはその今朝の記憶を吹き飛ばすかのように首を横に振った。

「…俺は…」

そしてそのままベンチで横になり目を閉じる。

戦争が終わって、ひと月経った。
いつの間にか前を歩いている彼等に、ナナは手を伸ばすことを諦めていた。
それどころか、背を向けて歩き出そうとしている。歩き出す心の準備は出来ている。

「…」

彼らには言わずに、静かに距離をとって。静かにその場を離れてしまえばいい。

「ナナ」

そんなことを考えていた最中。
ふと聞こえてきたナナの名を呼ぶ声に、ナナはばっと体を起こした。

「あら、起きてた」
「…カカシ」

そこにいるはずのない人がいる。
まだ体の調子が戻らない綱手の代わりに相当忙しくしていたはずだ。
そう考え呆然としたナナの頭を、カカシの手が撫で回した。

「頑張ってるね」
「あ、ああ…」
「何、そんな驚いた顔して」

嬉しさと戸惑いとが揺れ動き、ナナは息苦しさから胸を押さえた。
やましいことを考えているからだ。言いたくないけれど言わなければならない、ずっと考えていたことを。

「…い、今…大丈夫なのか?」
「今日はもうだいじょーぶ。どうした?」

ただ疲れているだけではない、そうカカシも気付いたのだろう。
ナナの横にカカシが腰掛ける。
既に何でも聞くぞと、そう構えているカカシがナナの顔を覗き込んだ。

「…」
「…あまり、良いことではなさそうだね」

ナナの表情から、察したようにカカシが声を潜める。
そう、カカシは察しが良い。ナナよりも遙かにいろんなことを知っている大人だ。
ナナはカカシの顔を見ることなく、そのまま口を開いた。

「……アンタも、本当は気付いてるんだろ」
「ん?」
「あの三人のこと」

あの三人。
それで気が付いたのか、それともやはり初めから分かっていたのか。
カカシはマスクから覗く目を一瞬細めた。

「バランスが良いんだ凄く。一人欠けても駄目、三人揃って完結する」
「ナナ」
「いらないんだよ、俺。どう考えても必要ない」

はっきりと告げる。
戦いの後、じわじわと実感しだしたこと。
「第七班はすごい」「カカシ班の子達は素晴らしい」
そんな称賛の言葉に、ナナは含まれていなかった。少なくともナナには、自分が含まれていると感じられなかった。

「そもそも俺は…第七班にいない、いなかったはずだ。いなくても成立するのは当然だよな」
「…」

アカデミーも共にせず、中忍試験もほとんど別行動。
結局、考えようとしなかっただけで、本当は初めからスリーマンセルで成り立っていたのだ。

「ま…そんなことだろうとは思ってたよ」

ナナの初めて零した本音。
それに対するカカシの返事は冷静だった。

「ナナの言う通りというか…ま、初めから想定できたことだ。ナナの立場はそれほど複雑だったからな」

今思えば、確かにずっとあった違和感だった。
それが戦争での活躍と、そしてそれを讃える声で自覚しただけだ。

「あ、でも…誤解、してほしくないんだけど…俺、アンタが繋いでくれた絆を切りたいわけじゃないんだ」
「ん」
「ただ…今のままじゃダメだって、俺にとっても、第七班にとっても。だから」

だから。
ナナは一度息を吸い込んで、息を止めた。
ちゃんと、カカシには言わなければならない。もう、第七班を名乗りたくないと。

「ちゃんと…俺にも、出来ること…見つけねーと…」

ナルトとサスケとサクラと。
第七班という場所に縋るんじゃなくて、もっと自分の役目を見つけたいのだ。

「…ナナ、お前は勘違いしてるよ」

しかし、ナナの言葉をさえぎるように、カカシがナナの腕を掴んだ。
こっちを見てとでも言いたいのか、ぐいぐいとその腕を引かれ恐る恐るとカカシの顔を見る。

「…勘違い?」
「お前は既に…お前にしか出来なかったことを成し遂げてる」

カカシの手がナナの頬を包み込み、そのまますると肌を撫でた。
ナナの肩がびくりと震えて、少しのけ反り無意識に距離をとる。

カカシはそんなナナに対してにこりと微笑み、先に立ち上がった。

「ついて来い」
「な、なに…」
「いいから」

優しい顔をして、けれどナナを待たずに先に歩き出す。
暫く、呆然とその背中を見つめてナナは歩き出せなかった。

抱きついて、甘えたくて仕方がないのに。
本当は大丈夫だよと根拠がなくてもそう言って、力強く抱きしめて欲しかった。なんて。

ナナはそんな自分の中にあった甘さを飲み込んで、その背中を追いかけた。





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