NARUTO

□慰霊碑の前で
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静かな朝、カカシが何も言わずに外に出て行った。
こういう時に彼が何をしているのか、さすがにもう知っている。
本人の口から聞いたことは無い。というか聞ける雰囲気ではない。
慰霊碑の前、カカシの過去。

「…聞けるわけ、ない」

あんな切なげに目を細めて、自分を責めるように拳をつくって。
あそこに座った瞬間にだけ見せる顔。
ナナなんかよりも長く生きて、違う場所で育ったカカシの過去など分かるはずもない。

「…」

だからこそ分かりたいのに。
ナナは細く開けていた目を開き、ゆっくりと起き上った。
カカシが出て行って、まだ数分。

「まだ5時じゃねーか、馬鹿かよ」

時間を見て、むすっと頬を膨らませる。
いい加減腹が立つ。こっそり出て行って一人で何してるんだ。

ナナはベッドから降りると洗面台に立った。
別について来るなと言われたわけではないし、隠す方が悪いのだ。

「場所は知ってんだからな」

誰に言うでもなく一人呟き、ナナは適当に身支度をすませるとドアを開いた。
朝日はまだ顔を覗かせたばかり、活気ある街もまだ静かだ。

この静かな朝に、何を思うのだろう。
いつも自分やナルト達に見せる笑顔の裏で、一体何を抱えているのだろう。

自分では、受け止めてやることすら許されないのだろうか。
だとしたら、彼はいつまで一人目を閉じるのだろう。



「カカシ」

切なげな背中に呼びかける。
カカシは驚いた様子で勢いよく振り返り、目をぱちくりと瞬かせた。

「え、なんでナナ…」
「なんでじゃねーよ。さすがに気付くっつの」

まさか本当にバレていないとでも思っていたのか。
呆れてため息を吐きながら、ナナはカカシの横まで行くと慰霊碑を見下ろした。
なんの感情も湧いてこない。カカシの気持ちなど全く分からない。

「気付くって…だからってわざわざ来なくて良いのに。あ、もしかして起こしちゃってた?」
「んなことどうでもいい…」
「ま、何が言いたいか分かるよ」

優しい声色でそう言ったカカシの手が、ちょいちょいとナナを座るように促す。
それに従って隣に膝をつくと、カカシは慰霊碑に手を重ねた。

「ここにはオレの友人の名が刻まれてる。オレに目を託してくれた友だよ」
「目…その、左目のことか」
「そ。この写輪眼は友…うちはオビトから受け継いだものだ」

額当てに隠された左目。
あまり木ノ葉の事情に詳しくないから考えたことはなかったが、写輪眼はサスケを含む“うちは”特有のものだ。

「オレはな、オビトと出会うまでは冷酷な…まぁ忍らしい忍だったんだ」
「アンタが冷酷?」
「自分で言ってもおかしな話だけどね。オビトに出会って…任務の遂行よりも仲間を守る事…そういう考えが出来るようになった」

カカシのしなやかな指が慰霊碑に刻まれた名をなぞる。
前向きな話をするのに、カカシの目はやはり悲しそうだった。
悲しい最期だったのだろうか、単純に守れなかったことを悔やんでいるのか。

「…悔しい」
「ん?」
「アンタのこと、知らないことが多すぎて、アンタと同じ時代に生きていれば良かったのに」
「ナナ…」

カカシの同期として、この木ノ葉に生まれていたら。
そうしたらずっと一緒にいられたのに。
ナナは慰霊碑を見つめたまま、きゅっと唇を噛んだ。
どんなに深く繋がろうとも、埋まらない穴があまりにも深すぎる。

「それは嫌だな」
「っ、なんでだよ」
「ナナに戦争なんて経験して欲しくないし、する必要もないだろ」
「でもそれじゃ、俺はアンタの気持ちを理解出来ない」

カカシの方に顔を向けると、カカシもナナを見ていた。
片目だけなのに、その強い視線にナナの方が先に逸らす。
悔しい、やっぱり敵わない。

「オレは、当時の仲間をもう全員失ってる。ナナでいう、オレや、ナルト達ね」
「最初の…スリーマンセル?」
「そ。オビトを失って…ミナト先生、それからリンも…オレは守れなかった」
「だから、こうやってここに来て…んな顔して悔やんでんのかよ」

ナナはカカシの額当てに手をかけた。上に持ち上げると、その左目が露わになる。
閉ざされた目、深い傷跡にはどんな過去があるのか。

「ナナ?」
「どんなに頑張っても、俺はその嘗ての仲間より近くにいけない」
「そんなことないよ」
「あるよ。だって俺は、アンタのその胸の内には近づけないじゃん…」

隠された肌の傷に触れて、そのままカカシの頬をたどる。
好きだ。こんなに好きなのに、全てを知りたいのに、全部全部分かりたいのに。

「でもそれはオレも一緒。ナナの小さい頃、その傷には触れないだろ?」
「そうだけどでも、俺には仲間なんていなかった。俺には今の…アンタ達だけが全てだ」
「そんなことはないでしょ。ナナにも大事な先生がいる。オレはその人には代われないよ」

違う、そうじゃない。
未だにカカシの腕を引っ張り続けるその過去が、カカシの目となって掴み続けるその人が。

「…馬鹿」
「何、急に」
「アンタが馬鹿だからだ。嫉妬してんだって、気付けよ」
「え」

触れていたカカシの目のその傷に、ナナは唇を寄せた。
カカシの瞼が微かに震える。慰霊碑に重ねられていたカカシの手が、ゆっくりと地面に落ちた。

「ナナ…」
「俺は、アンタがあっちに囚われそうだから…っ、俺から、離れていきそうだから…!」

そのままカカシの頭を抱き締めて、強く目を閉じる。
心臓が煩くて、それがカカシにも伝わってしまうのが恥ずかしくて。
それでも止まらない思いに、ナナはすんと息を吸った。

「…泣いてるのか?」
「なんで泣くんだよ」
「いや…そうだな、ごめん、ナナ」

ぽんぽん、と背中を軽く叩かれる。
なんだ子供扱いしやがって、そう思うのに言葉は出てこない。

「ナナ、顔見せて」
「…やだ」
「キスしたいから、顔見せて」
「っ、ば、かかよ…」
「馬鹿だよ」

カカシはナナの目元にキスを落とし、それから唇に重ねた。
そうだ、もう子供なんかじゃない。
これから隣を歩んでいくのは他でもない、自分だ。

「ん…、」
「ナナは可愛いね」
「はぁ?」
「こんなとこじゃイチャつけないし、帰ろうか」

カカシがナナの手を引いて立ち上がる。
いつもなら突っ込みを入れただろう言葉にも、ナナは何も言わなかった。
何でだろう、こんなにも嬉しいのは。

無言で手を掴んで、体を寄せる。
片手で額当てを戻したカカシが、嬉しそうにふふっと笑ったのにも、ナナは何も言わなかった。


・・・


「ナナ、おいで」

家へ帰ったカカシは、すぐさまナナを呼んだ。
倒されていた写真立てを手に取ってこちらに向ける。

「見て、これがオレの友人と先生」
「あぁ…これがそうだったのか」

倒されていたから、わざわざ手に取って見たことはなかったけれど。
カカシ自身何か思うことがあったから閉ざしていたのだろう。
覗き見た写真にはナナよりも小さいカカシが写っていた。

「カカシ、今よりも生意気そうだな」
「ちょ、オレのことはいいから。ていうかこれでもかなり優秀だったのよオレ」
「へぇ」
「うわ、絶対信じてないね」

むすっとしたカカシの頭に手を乗せる優しそうな先生。
それから可愛いらしくピースをしている女の子と、カカシの隣に立っているのがうちはオビトだろうか。

「なんか、この先生っての…見た事ある気がする」
「あ、分かっちゃった?」
「え?」

見た事がある気がする、とうか、誰かに似ているような。
そもそも既に亡くなった人なのだから、見た事はないはず。
なのに今のカカシの反応はなんだ。

ナナは不思議に思いカカシを見上げた。
カカシは何も言わずに笑っている。

「…?見た事あるのか、俺」
「会った事はないだろうけどね」

もう一度視線を写真に戻して、じっと見つめる。
黄色のつんつんの髪、優しそうな笑顔。ここから何が分かるというのだろう。

「…ナルトに似てるのか」
「あ、先にそっちにいったか」
「は?」

カカシの変な反応に、またカカシを見上げる。

「どういうことだよ」
「いやね、見た事あるってのはたぶん…似た顔の岩が」
「岩…あ!」

そしてもう一度写真に目を移せば、確かに見覚えのある岩を知っている。

「もしかして、火影?」
「そ、ミナト先生は四代目火影だよ」

四代目火影、そういえば一度も見たことがなかった。
ナナが木ノ葉に来た時、火影は三代目のおじいさんだった。
そして今は、五代目火影の綱手。
火影になってから、早くして亡くなってしまったのだろう。

「…会って話してみたかったな」
「そうだね、生きていたなら」

カカシの頭に手を乗せているその人に指を辿らせる。
すっとホコリが指に付いて、鮮やかになったその写真の人の髪は、やはり綺麗な黄色だった。

「なぁ、この人…ナルトと関係のある人なのか?」
「どうだろうね」
「何だよそれ」

はっきりと違うと言わないということは、この人はたぶん…。
そんな予想をたてていたナナの腕が、ぐいとカカシに引かれた。
にこりと笑ったカカシがマスクを外す。

「さて。ナナが煽ったんだから、覚悟してね」
「…、それ、反則…っ」

慌てて写真立てをそこに置くと、口付けしながらカカシが片手でそれを倒した。
なんだよ、見せつけたっていいのに。
珍しくそんな事を考えながら、ナナはカカシの首に手を回していた。




2014/04/05

カカシ先生の暗部時代をオリジナルでやっていると知り早速アニメナルトをチェックしました。
そうしたらもう、やっぱりカカシ先生が格好良いので、書きたくなって書きました。

この話に関しては、今後の長編にも影響します。

それにしてもアニメのヤマト隊長の目の壁画っぷりといったら。
映る度に笑ってしまいましたが、ヤマト隊長大好きですよ。

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