NARUTO

□銭湯にて(ヤマト)
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たまには広い風呂に入りたい。そう思ったのはとある平和な日。
カカシが忙しく外に出ているということもあり、ナナは一人で近くの銭湯へと向かった。

時間が早かった為か、貸切状態の浴槽へと足を入れる。
なにも考えずにゆっくり、なんてなかなか出来ない。
ナナは無防備にも目を閉じて、岩の壁に背中を預けた。



「…ナナ?」

だから、まさか自分の名が呼ばれるなんて思ってもみなかった。

「こんなとこで鉢合わせるとは…なんというか」
「ヤマト隊長…!?」

ぼやりと白いもやの向こう、申し訳なさそうに立っているのはヤマトだった。
早速一人ゆっくり、という状況がなくなり、ナナも気を抜きすぎていた体勢を直す。

「奇遇ですね」
「こんなことあるんだね…、と、失礼するよ」

そう言いながら入ってきたヤマトは、気を遣っているのかナナから少し離れたところに浸かった。
それはそれで、こっも申し訳なくなる、というか。

ナナはあまり気にしないように、顔を上げて開けた空に目を向けた。


「今日は…カカシ先輩はいないんだね」

ぽつりと、特に何か考えていったのではなかろう質問に、ナナは首だけこくりと動かした。

「あまり…君と二人きりになったことがないから不思議に思ってね」
「別に、いつもカカシやナルト達にくっついてるわけじゃない」
「ごめんごめん、だよね」

へらっと笑っているヤマトだが、ナナと二人きりという状況に戸惑っているのだろう。
話題を絞り出そうとしている感がにじみ出ていて、その緊張感がナナにも伝わってくる。
とはいえこちらから会話を引き出すつもりもなし、ナナはふーっと息を吐いてからずるりと体を沈めた。


「…そういえば、ボクってナナのこと良く知らないんだけど」
「はぁ」
「五色から木ノ葉に来たっていうのは、異例というか…有り得なかった事だよね」

そして切り出された話は、ナナにとってあまり触れられたくない部分だった。
つまり、五色とは。ナナが木ノ葉に来た理由とは。

「…それ、本当に知りたいですか」
「え?あ、いや。話せないことなら全然…」
「別に構いませんけど、聞いても得はしないと思いますよ」

ちゃぷん、と水面が揺れる。
ナナは少し体を前のめりにして、ヤマトに目を向けた。

「そもそも有り得ないのは俺じゃなくて、俺の両親。俺の母は五色、父は木ノ葉の忍なんです」
「へぇ…え?でも、五色って今は隔離されてるんじゃ」
「詳しい事は俺も知りませんけど」

五色の里は確かに閉鎖されている。とはいえ、全く外に出れないわけではない。
恐らく任務で五色の近くに来た木ノ葉の男、そして偶然同じタイミングで五色から出た女、それが鉢合わせてしまったのだろう。

「俺は無事生まれました。でも、父は追放されて、母は自殺した、と聞いています」
「…それは…」
「暫くの間、俺は親戚にあたるだろう人の元を回されて…正直かなりグレてましたよ」

同情か、切なげに顔を歪めるヤマトに対し、ナナは軽く口元に笑みを浮かべた。
思い出したくもない過去だが、それは過去でしかない。
向き合った今、それはナナにとって大した問題ではなかった。
とはいえ聞く側がどう思うか…それが想像できるからこそ、重くならないように笑顔をつくる。

「どうして五色を出たか、という話ですが…まぁ俺がかなり五色の人間を殺したからで」
「え、それはまた随分話が切り替わったね」
「そうでもないですよ。ちゃんと繋がって、…」

そこまで話して、ナナはふと口を閉ざした。
こんな話を、本当にヤマトに言ってしまって良いのだろうか。

「…ナナ、ごめん。忍の過去なんて、簡単に首を突っ込んで良いものじゃなかったね」
「いえ、別に、そういうことじゃない…じゃなくて、俺は…」

忍として、じゃない。
人間としての汚れた過去だ。

「ヤマト隊長、俺の顔、好きですか」
「え?」
「小さい頃から、見た目だけはかなり目立っていた、んだ、たぶん」

直接誰かから褒められたわけではないけれど。
ナナの質問に薄ら頬を赤くしたヤマトも、きっと意識するところはあるのだろう。
それを見たナナは、何か吹っ切れたかのようにふっと笑った。

「そんな力を持たないガキが一人、発散するために襲うのは容易かった」
「そ、それって…」
「薄汚い俺を引き取ってくれた先生は、俺に自身を守る術を教えてくれた。だから俺は、ガキに手を出す大人達を皆殺しにしたんだ」

それは、たぶん、五色が恐れた復讐の前兆だった。
勿論、五色にいたからって五色を潰すようなことはしなかったろう。
けれど、その可能性と力を持つナナを、五色は恐れたのだ。

「ナナ、」
「同情とか、謝罪とかそういうのいりませんよ。俺はもう吹っ切れてる」
「そ、そう…でも、無神経だった」
「そんなことないですよ。部下の事を知るのも、上司の務め、とかそういうのあるだろうし」

少しヤケになって、というか逆上せてきていたこともあって、ナナはざばっと立ち上がった。

浴槽から出て、頭を冷やそう。
その程度の考えからの行動だったのに、ヤマトは何を勘違いしたか、慌てて立ち上がった。

「ま、待って、ナナ…!」

ナナを悲しませた、とかそういうことを考えてしまったのだろう。
ヤマトが背を向けたナナの腕をぐいと引っ張る。

その思わぬ引力に、ナナの足がつるりと滑ったのは、悪魔の悪戯か。

「うわ…!」
「え、わ、ナナ!」

転びそうになったナナの体に手を回し、抱き込んだヤマトごと倒れ込む。
思わず目を閉じ、その真っ暗な視界の向こうでどしんと重い音が響いた。

「…っ、あ、ぶないじゃないですか…」
「ご、ごめん…、さっきからホントにボクは…」
「だから、俺は気にしてませんって」

今のもヤマトのせいとはいえ、ヤマトのおかげでどこも痛くないし。
そう思って薄く目を開くと、目の前にはがっちりとした肌色が広がっていた。

思わず、結構良い体してるんだな、とか鍛えてそうだなとか考えて。
数秒の間素肌同士が触れている状況を受け入れてしまったことに気付くも、ヤマトが動く気配がない。

「……あの、もう放してもらって、いいんですけど」
「え?あ!うわああ!!」

がっちりと腰を支えていた手が今度は思い切り放された。
真っ赤になったヤマトはあからさまにナナから目を逸らし、手を顔の前にやって視界を覆う。

それがどういう意思表示か、さすがに今の流れで分からないガキでもなし。
ナナも釣られて顔を赤くすると、そこにあったタオルを腰に巻き付けた。

「あんな話したからって、ヤマト隊長までそんな、意識することないじゃないですか…」
「いや、それとは関係なく…、単純にナナが、いや、何言ってるんだ、待って、ちょっと落ち着くから…!」
「…どうぞ、俺は先に上がりますんで」

こんなに取り乱すヤマトも珍しい。
それはともかく、この小っ恥ずかしい空気には耐えられない。
ナナは素早く脱衣所の方へ歩き出した。

「こ、このことは!カカシ先輩に言っちゃ駄目だからね!!」

後ろから聞こえてきた叫びは、悲痛に裏返っていた。




2014/03/22

原作からヤマト隊長がフェードアウトしてかなり経ちましたね。
サイト主は正直ヤマト隊長も大好きなので、早く元気な姿が見たいです。

それはともかく。
夢主とヤマト隊長に少し絡んでもらいたくて書きました。
絡んでいる、というより過去のまとめみたいになってしまいましたが。

この話を書くにあたって、カカシ先生とヤマト隊長の体格を比べました。
イメージ的にカカシの方が細身でヤマト隊長の方がどっしりしていると思っていたのですが
全くそんなことはありませんでした。
ヤマト隊長の体重がサイト主受験期ピークの体重と同じで絶望しました。

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