NARUTO

□次の任務へ
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微かな寝息。一定の間隔で聞こえてくるそれは、ソファーからきている。

任務の報告に戻る前に、ナナだけ家に返した。そしてカカシが戻ってきた時にはこれだ。

「…なんでベッドで寝ないかな」

だいたい想像は出来る。ナナ自身、ここで寝てしまうつもりはなかったのだろう。
疲れて帰宅し、何気なくソファーに寝っころがって、そのままフェードアウトってところか。

「ん…」

足の擦れる音と共に、ナナが小さく声を漏らす。特にやましい事は考えていなかったが、カカシはびくりと体を強張らせた。
寝ているだけで、どうしてこんなに色気があるかね、この子は。
口には出さずに、カカシはゆっくりナナに近寄った。これが自分のものであるという至福。

「…ナナ」

名前を呼んで、顔にかかる髪を指でどかす。
それはほんの一瞬で、カカシの手は寝ていたはずのナナに掴まれていた。

「おかえり」
「ん、ただいま」

ナナはソファーに寝たまま体を伸ばした。あまりにも無防備な姿にカカシは視線を少しナナからずらす。

そんなカカシの思考など知らないナナは握り締めていたカカシの手に頬を寄せた。

「俺…結構寝てた?」
「いや、今帰ってきたところだよ」
「そう、良かった」
「良かった?」

こくりと頷いたナナはカカシの手を離し、その手をカカシの方へと向けて伸ばした。

「…二人きりなの、久しぶりだろ」
「っ、」
「キスしたい」

ごくりとカカシの喉が鳴った。ナナはそんなカカシの様子に気付いて笑っている。それから手をもう一度、カカシを求めるかのように思い切り伸ばした。

「なんてこと言うのかな…ホント…」
「なんだよ、したくねぇの?」
「まさか」

伸ばされた手を掴んでソファーに押し付ける。上から見下ろしたナナの姿は、寝起きだからか目がとろんとしていて、普段の寄せ付けない空気は微塵も感じられない。
カカシはソファーの横で腰を曲げると、ナナに唇を重ねた。

「ん」

触れるだけのキスに、不服そうにしたのはナナだ。

「…カカシ」
「いや、これ以上したら止まらなくなるでしょ…」
「止まんなくていい」
「残念だけど…綱手様がお呼びだよ、ナナ」

明らかにナナの顔が曇った。むしろ、こちらがいつものナナの顔のような気はするが。

「行く必要ない」
「あるから」
「…」
「ナナ」
「…ずりぃよ、そうやって」

優しく名前を呼ぶから、言い返せなくなる。
ナナは渋々体を起き上らせると、洗面台へと足を進めた。
ばしゃ、と冷たい水を顔に浴びて、乱暴に顔を拭く。ついでに髪の毛を適当に整えれば、もうさっきまでのナナはいない。

「行けばいいんだろ」
「うん、行こう」
「一緒に?」
「行くよ」
「…」

ナナの口元が少しだけ柔らかくなったように見えた。
ナルトがナナは最近わかりやすくなった、とヤケに主張していたが、確かに納得できる。

「何笑ってんだよ」
「別に?」
「うぜぇ」

口悪いのは変わらないが、嫌な気はしない。
カカシはさり気なくナナの手を引いて扉を開けた。



・・・



繋がれていた手は前触れなくぱっと離れた。
待ち構えていたかのように立っていた綱手を前にして、ナナの表情は固くなる。

「何を言われるか、だいたい予想はついているって顔だな」
「…俺が呼ばれる理由は、一つでしょう」

「大蛇丸が死んだ」

不意打ちだった。綱手はナナの予想していなかったことを告げた。
新しい情報であるはずのそれ。しかしナナはその綱手の言葉に対して上手く反応することが出来なかった。
隣にいるカカシは驚いて目を見開いたというのに。

「…知っていたな」
「しっ…」
「演習場で会ったのはカブトか」
「っ!なんで、それ…、あの野郎、報告しやがったのか!」

まんまとやられた。演習場で倒れていたというのはゲンマが知ることで、それはナナが口止めしたはずだった。
声を荒げて怒りを露わにするナナを、綱手は冷ややかな目で見つめている。

「何故隠そうとした」
「…」
「報告してもらうぞ、カブトと接触して、何があったのか」
「…っ、」

ナナの息が上がった。体が記憶する感触を、嫌でも思い出してしまう。
そのナナの視線が一瞬カカシに向いたのを、綱手は見逃さなかった。

「…わかった。カカシ、席を外せ」
「な、何故です」
「空気を読め。いいから出ろ」
「はい…」

カカシが横からいなくなる。ナナはそれに少し安心してしまった。
カカシにだけは知られたくない体の異常、やってしまった事実。

かたん、と扉の閉まる音がして、綱手もナナへ向ける視線を強くした。


「これで話せるか?」
「…」
「言いたくないのはわかるが、言ってくれなければ出来る対処も行えないだろう」

ため息交じりに言った綱手の言葉に、ナナの手に加わる力が抜けた。

「対処…出来るのか」
「言ってもらわなければわからん」
「…」

ナナの口から熱い息が吐き出される。思い出せば思い出すほどおかしくなる。掻き乱される。
それでもナナは覚悟して、静かに口を開いた。


「薬師カブトに、会った」
「演習場だな」
「ん…カブトは大蛇丸を取り込んだ」
「…どういうことだ」
「よくは知らない。ただ…俺は、カブトに支配されているみたいだ」

再び手に力がこもる。きつく握り締めて爪が食い込むのも気にならない。今は痛みの方がまだ良いと思えた。

「カブトは、俺が欲しいと…。俺が、奴に対して過敏に反応するようにした」
「あの変態ヤローが…っ、お前、今頭は正常か?」
「あぁ…洗脳はされてない。俺の、抵抗する顔が…見たいらしい」

自分で言って吐き気がした。相当の変態野郎だ。そして、その変態野郎に抵抗出来なかったのが一番の屈辱だった。

「今の、その体の症状は?」
「…熱い。自分の意思に関係なく…性欲求が強くなる」
「何もしなくとも、突然なるのか」
「いや…主に、奴を思い出した時と…チャクラを練った時だ」

確か、そうであるはず。
しかし、ナナの中でカブトの存在が大きくなりすぎて、こうならない時間が減ってきているのだ。
ナナは俯いて体を抱きしめた。どうしたら良いかわからない、この熱を取り除く術が見つけられない。

「なるほどな。お前の言うことが正しいなら…方法はある」
「…!」
「無茶なやり方になるが…一時的に、なら」

綱手のただならぬ雰囲気に、ナナは聞くのを躊躇った。嫌な予感がする。聞きたくないような気がした。それしか方法がない、と思わされたくないような、そんな予感。

しかし、ナナが聞かずとも、綱手は自ら口を開いた。


「奴との記憶を消せばいい」

「は…」
「そうすれば、記憶から反応することはなくなるはずだ」
「そ、」
「当然、連想されるだろう他の記憶も消さねばならないが」

連想されるだろう記憶。

「カブトや大蛇丸と接触した、それ以降の記憶、全部だ」

がん、と鉛をぶつけられたような感覚だった。



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