黒子のバスケ

□青峰
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ずっと、羨ましいと思っていた。

「やっぱテツとはバスケだと気が合うんだよなァ」
「同感です」
「他のことだと、からっきしだけどな!」
「…ですね」

そう言ってボールを繋ぐ。
手から手へ。そして高いゴールへと。
自分では届かないゴールに、彼の手は運んでくれる。

それを、独占出来たら良いと、


「おーい真司?いつまで休憩してんだよ」
「烏羽君…チェンジお願いします…」
「あはは、りょーかい!」

黒子がこちらに向けた手に、自分の手のひらを合わせる。
ぱちん、と軽い音がなるなり、黒子はへろへろとその場に座り込んだ。

「ハァ、ったくテツは体力ねーな」
「君達が、無尽蔵なんです」
「だってよ、真司」
「いやそこは、たぶんテツ君正論だから。俺ら無尽蔵だし?」

一緒にいることが嫌だと感じたことは無い。
黒子といる時間も楽しくて、大好きで。
けれど、どうしてだろう。青峰に対して抱くこの収まりきらない感情は、他の何をも流して真司の心を乱す。

「…なんか、あれだな。オレが真司と同じ背の高さだったら、何か違ったかな」
「え?」
「いや。ゴールがさ、なんかスゲェ近いんだよな…」
「うっわあ、それ嫌味だよ。言っちゃいけない類のやつだよ」

青峰が長い腕をゴールに向けて伸ばす。それに従って伸ばした真司の腕は、あまりにも遠くゴールに届かない。
それどころか、青峰の手にも触れられない。
その距離が無性に悲しくて。

「…、」

急に喉がつっかえたように、言葉が途切れた。
空気を掴んだ腕を、静かに下ろして自分の顔を覆う。
意味も分からず込み上げる熱が、指の隙間を辿って零れ落ちていく。

「…え、おい、真司…?」
「ご、め…ちょっと……駄目、だ…」
「はあ!?な、なんで、おおオレのせいか!?」

低い声を裏返させて、青峰が珍しく動揺して真司を覗き込む。
どうしたら良いのか迷った結論なのだろう。青峰は静かに真司の頭を撫でて、そのまま自分の胸に真司の顔を押し付けた。

「わ、わりぃ…そんなに背ひっくいの気にしてるとは…」
「青峰君、それ慰められてないですよ。ていうかボクも割とカチンと来ました」
「いや…だってよぉ…」

違う、違わないけれど、違う。
どんなに頑張っても、青峰の立場に立って世界を見ることは出来ない。
彼の苦しみだとか悩みだとか、そういう些細な事でも真司には辿り着けない一線がある。
もしも、そこに辿り着いて青峰の心を癒せる者がいるとすればそれは、青峰と同じ立場の者か、もしくは影。

「はぁ…俺、なんで泣いてんだろ…馬鹿みたい…」
「お、泣き止んだか…?」
「……でも、もうちょっと慰めてよ。反省の意を込めて」
「ま、まだ伸びるって。なあテツ?」
「それは何とも」
「二人とも酷い…!」

わしゃわしゃと髪を乱暴に撫でる大きな手。
真司の高さに合わせて少し腰をかがめてくれる大きな体。
そして、耳をくすぐる低い声。

もうずっと特別だった。
大好きな黒子を羨ましく思ってしまうくらいには、ずっと。
そして、そんな真司の思いに、ずっと黒子は気付いていた。

そんな不毛な関係を見て見ぬふりし続けて。気付かないふりをし続けて。
一つ欠けたまま、無理矢理歯車を回していた。





2015/01/14


ちょっと切ない夢主の内心。
時間軸は謎ですが、たぶん夢主の“純粋な初恋”は青峰君です。
そういう複雑な思いが伝われば良いかな…と。

青峰君の切ないキャラソン聞いたら書きたくなったという衝動的なものなのですが
ちゃんと長編にも繋がります。
これを読んで下さった方には少しだけ
桐皇との試合後に切ない夢主の思いが伝わるのではないかなと思います。

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