黒子のバスケ

□クリスマス(2014)
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1.黄瀬とちょっと緑間





クリスマスに対して思い入れなんてなかった。
華やかになる街が眩しくて、自ら聴こうとしているわけでなく聞き飽きたメロディーが流れ続ける。
むしろ煩くて、面倒で、うざったいだけ。
そんな風に思っていたクリスマスに、それこそ似合うだろう華やかな男がパッと顔を出した。




「真司っちー!メリークリスマス!」

キラキラとした笑顔はいつも通り。けれど少しテンションが高いのは、この男もイベントに感化されているからだろう。

「黄瀬君…俺なんも持ってないからね」
「ん?いや別に真司っちにたかりに来たんじゃないっスよー」

そう言いながら、黄瀬は休み時間になって空いた隣の席にためらうことなく腰掛けた。
頬杖ついてニヤついている顔は、なんとも腹立たしい程綺麗だ。

「真司っちさ、クリスマスなんてつまんねーってずーっと言ってたっしょ」
「え、そりゃ…。だって今まで特別なことなんてなんもなかったし」
「そんなんじゃせっかくのクリスマスがもったいねーじゃんって思って」

急に視線を落とした黄瀬は、自分の制服のポケットに手を突っ込んだ。
ふふんと楽しげに鼻を鳴らす黄瀬に、真司は机に上半身を預けて視線だけを彼に送った。
嫌だ、何か期待してしまいそうになる。

「真司っち、手ェ出して」
「な、何だよ」
「いーから、はーやーくー」

キラキラとした笑顔に思わず視線を逸らして、手だけを黄瀬の方へ向ける。
視界の外でとんと手に何か乗せられたのが分かり、思わずごくりと唾を飲んだ。

「何目ェ閉じてんスか?目開けてていっスよ?」
「や、うん…」

妙な緊張感にゆっくりと目を開く。
手の上に乗っているのは、黄瀬によく似合いそうな、お洒落なシルバーのブレスレットだった。

「…これを、俺に?」
「何がいいか考えたんスけど、真司っちが欲しいモンなんて分かんないしさ。オレの好みプラス真司っちに似合うだろうなっての選んだんスけど…」

どう?とさっきまでの自信満々の笑顔とは裏腹に、少し不安そうな目が真司を見つめる。
どう、と言われても。
真司はじっとそれを見下ろして、恐る恐ると腕に通した。
これが自分に似合っているのか。黄瀬のように煌びやかな人間じゃないのに。

「思った通り、似合ってる」
「…そう?」
「真司っちって何か華やかだから、選ぶのチョー楽しかったんスよ」
「そ、そう、なのかな…。でも有難う」
「これでちょっとは特別な日になった?」

今度はやっぱり嬉しそうに。
黄瀬の大きな手が真司の腕に重なって、真司はすっとその手を引いた。

「黄瀬君さあ、やっぱり俺のこと女の子だと勘違いしてるだろ。恥ずかしいなあ、もう」
「あ、もしかしてドキドキしちゃったっスか?」
「…何俺のこと口説いてんだよやらしい目で見ないで下さい」

ふいっとそっぽを向いて、触られた手を擦る。
なるほど確かにプレゼントってのは、欲しい物だとかそういうことじゃなくても嬉しいものだ。

「あ」
「ん?どうしたんスか?」
「いや…あー…朝のあれもそうだったのかな…」
「え?朝?え!?オレ一番のりじゃなかったんスか!?」

ガタン、と大げさに椅子を揺らして迫って来た黄瀬に、どうどうと手のひらをかざす。
朝、偶然にも校門のところで一緒になったのは緑間だった。
いやあれは、本当に偶然だったのだろうか。



『あれ、緑間君おはよう』
『烏羽…ああ、おはよう』

いつも通りに校門を入り通り過ぎようとしたところ、そこに緑間が立っていた。
何やら緑間は珍しくポケットに手を突っ込んでいて、寒いのかなと考えつつその隣に並ぶ。
緑間はごそごそとポケットの中で手を動かし、それからその手を真司の前に出した。

『え?何?』
『手を、出すのだよ』
『はぁ…こう?』

ぱっと手を開くと、緑間の握られた手の中から何か落ちた。
真司の手のひらに落ちたのは、小さくて綺麗な色をした飴玉の入った袋。

『わあ…何これ可愛い!』
『お前にやるのだよ』
『え?』

驚いて顔を上げると、緑間はこちらを見ていない。
全く、いつも通りこの人は何を考えているか分からないな。そんなことを考えつつ、真司はその袋を片手で掴んで持ち上げ、目の前にかざした。やはり綺麗な色だ。

『なんだよどうしたの?あ、もしかしてクリスマスとかそういう』
『今日の、お前の、ら、ラッキーアイテム…なのだよ』
『あはは!まあそうだと思ってたけど!』

人のラッキーアイテムを持ってきてくれるなんて、やはり今日はちょっと気分がいいのかもしれないな。
隣を歩く緑間への感謝を示す為に、少し近付いて肩をとんと緑間の体にぶつける。
満足そうに鼻息をふんっと漏らした緑間に、真司は面白いなあと何気なく思っていた。


だけだったのだが。
真司は鞄の中にしまった緑間からもらったラッキーアイテムだという飴玉を取り出した。
綺麗な飴玉。少しお洒落なリボンが袋を飾っているところも今見るとやはり。

「それを、緑間っちが?」
「今朝もらったんだけど…これやっぱりクリスマスだからくれたのかなあ…」
「や、そうにしか見えないんスけど…」

頬杖ついた黄瀬が、ため息交じりに返す。
ていうか実は真司っちのこと待ってたんじゃね?と言われてしまえばそうとしか思えなくなって。
腕につけられたシルバーと、手の上でキラキラと光る飴玉。
真司は二つをじっと見つめ、緩んだ顔に腕を引き寄せた。

「あー…」
「真司っち?」
「うん、すっごく嬉しいかも…」

何も用意してないのに。何かしたわけでもないのに。
真司は頬にシルバーのブレスレットを寄せて、黄瀬の方へ視線を向けた。

「メリークリスマス、黄瀬君」
「…!」

感じた事の無い喜びに、顔が熱くてどうにかなりそうだ。
緑間君も有難う、後でちゃんと伝えよう。そんな事を考えて目を閉じると、がららっと黄瀬が立ち上がった。

「、…っ、真司っち…!」
「え、何どうしたの?」
「今日、帰り、…とか!ケーキ、そうだケーキ食べに行こう!ちゃんとさ、そういうのやろう!!」

黄瀬を見上げると、何やら黄瀬も頬を赤くしている。
それからちらと時計を見て、ああもう!と叫んだ。

「や、約束っスよ!帰り、どっか行かないでね!」
「か、考えとくから…早く教室戻りなよ黄瀬君」
「うん!じゃあ後でね!!」

ばたばたとイケメンが女子生徒をかき分けて教室を出て行く。
急にテンション上がってどうしたんだろう。
真司はふーっと息を吐いてから、リボンを外した袋から取り出した小さな飴玉を口に放り込んだ。






2014/12/24
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