黒子のバスケ

□モデルデビュー?(帝光青峰寄)
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黄瀬に引っ張られてモデルの事務所に連れていかれたのは数日前の話。
黄瀬が彼女を作ったという噂のその真実をマネージャーさんに教えなければならなかったらしい。
もしそれが事実なら大問題だし、それが嘘だったのなら自然と騒ぎが収まるのを待てばいい。

そこで何故真司が連れていかれたかというと。
黄瀬の彼女役をやったのが真司だったからだ。不本意ながら。


「どうしよう、どうしよう青峰君」
「さっきからどーしたんだよ。らしくねぇ顔して」

青峰の席を占領するかのように机に上半身を預ける形で突っ伏していた真司は、何か縋るような目を青峰に向けた。
先程から真司はずっとこんな調子だ。
どうしよう、生きていけない、平凡な人生が終わったと繰り返し嘆いている。

「相談にならのってやんぜ?まあ答えてやれるかは自信ねぇけどな」
「いや、うん、それは別に期待してないんだけどね…」
「じゃなんなんだよ」
「…それは、その…」

しかしやっぱり口から上手く言葉が出てこない。話せばどうなるか予想が出来たからだ。
とはいえこの事実を一人…いや二人だけで抱えているのも苦しいわけで。

「青峰君、絶対に、笑わないでね」
「おう」
「探さないでね」
「お…何を?」

きょとんとする青峰に対し、真司はうぐぐとまた口をつぐんだ。
いやダメだ、やっぱりこの人に言ったら全てが終わる。
そう思った真司は、それまでの態度とは裏腹に素早く立ち上がった。

「やっぱりなんでもない、なんでもなかったことにする」
「は?いや、お前、ここまできて何だよ、気になんだろ」
「だからこそ嫌な予感がする」
「あ?」

若干苛立った様子の青峰に腕を掴まれて冷や汗が頬を伝う。
その時だった。

「真司っち!!!」

別のクラスのくせに頻繁にやってくる黄瀬が、この日も案の定飛び込んできた。
輝く笑顔と眩しい程に美しい容姿はいつでもどこでも変わらない。
そんな黄瀬にいつもなら呆れた調子で「また来たの?」と言い放つ真司はこの日に限っては違った。

「うわぁあああ!!来んなあああ!!!」

両手を前に突き出して、その手をどんっと黄瀬に向ける。
真司の力いっぱいの一押しは、黄瀬にとっては何ということもない。

「ど、どうしたんスか真司っち?」
「駄目!黄瀬君!今その手に持ってんのあれだろ!分かってんだからな!?」
「あ、分かったっスか?丁度空きページがあったみたいで早速使われてるっスよ!」
「いらんって言ったのにバカバカ!!」

あれ、何かいつもより仲良さそうだな。
何故かじゃれ合う二人に青峰の眉間のシワが深くなったがそれはさておき。
黄瀬の手にある物とは何か気になり、青峰は目を凝らした。

「…エロ本?」
「なわけあるかこのエロ魔人!」
「ファッション雑誌っスよ!!」
「何なんだよお前ら…」

妙に息の合っている二人に尚更青峰の眉間のシワは深くなる。
気に食わない、それ故の無意識の行動だったのだろう、青峰は長い腕をいっぱいに伸ばして真司の腰に回していた。

「え、うわ、何!?」
「何か腹立ったからこっち戻って来い」
「だ、駄目!今黄瀬君をフリーにしちゃ…っ」

青峰にがっちりとホールドされた真司はずりずりと青峰の元に引きずられていく。
それでようやく自由になった黄瀬は、手に持っていた雑誌はじゃじゃんと真司に向けて見せた。
表紙は本当にただのファッション雑誌だ。

「で、黄瀬は何しに来たんだよ」
「そう、これっス!何と事務所の人が真司っちの可愛さに惚れ込んじゃってね!」
「黄瀬君止めろ!」
「見て下さいっスこれ!」

ばっと黄瀬が開いたページには可愛らしい女の子…ではなく。

「“男の娘”…?」
「そーっス。めっちゃくちゃ可愛いっしょ?青峰っちも大好きな子っスよ〜」

黄瀬がぶん殴りたくなるほどニヤニヤとしていて、一方で真司はとうとう暴れるのを止めて歯を食いしばっている。
恐らく見せられただけでは気付かなかったその正体。
二人の様子に、青峰は「あ」と声を上げた。

「これ…真司じゃねーか」
「違う」
「お前いつからあっちの世界に」
「違うってば!」

違うと言いつつも真司の頬は真っ赤に染まっている。
ついでに黄瀬は躊躇うことなく「違くないっスよ」と言い放った。

「おいおいマジかよ…真司…お前」
「ち、違うからね!俺の趣味とかそういうんじゃなくて…っ、だってすごい頭下げられてね!?」
「お前ほんっと可愛いな」
「はぁ!?」

顔のアップと全身のとどちらも綺麗に載せられている。
青峰は真司の薄っぺらい紙に印刷された顔を指でなぞった。
実際のところ、クラスにいたら一番の美少女じゃないかってくらいだ。

「オレ気付いちまったんだけどよ、真司が女だったら完璧だったんじゃね」
「な、なんだよ完璧って」
「気が合うし、一緒にいて楽しいし、可愛いしで」
「っ…!」

胸が足りねぇけど。と付け足された言葉は聞かなかったことにして。
真司は青峰の手が緩んだ隙に、黄瀬の後ろにサッと回り込んだ。

「青峰君…いつから俺のことそんな…」
「は?」
「あ、青峰っち…駄目っスよそんな現実逃避…」
「おい、なんでそういう話になってんだよ。オレはもしもっていう」

戸惑い真司に伸ばされた青峰の手に、真司の肩がびくりと震える。
いやおかしいだろ、どうしてこんなことに。
そう突っ込む隙さえ与えない黄瀬と真司は、やはり息が合いすぎだ。

「俺は…俺は、絶対二度と女の子の服なんて着ないからな!」
「え!?いっぱい用意したのに!」
「お前もか黄瀬君!自分で着てろこのイケメン巨人!」

あれ、そうでもないわ。
青峰は目の前で繰り広げられる無駄で喧しいやり取りに、とうとう呆れて目を閉じた。
その脳裏に浮かぶのは理想そのものな女の子。そしてそれは目の前にいるわけで。


「…真司、ちょっとこっち来いよ」
「な、なんだよ…」
「いや、せっかくだし」

そう言いながら両手を真司の方に向ければ、躊躇いがちに黄瀬の後ろから出てくる。
黄瀬の制止も聞かずに青峰の前まで来た真司は、あろうことか自分から青峰の足の上に腰掛けた。

「真司っちいいい!?」
「んな驚くなよ黄瀬。よくあることだよ、なぁ」

少し頬を膨らませて不服であるということをアピールしているが、小さな手は青峰の腕を掴んでいる。
なんだかんだで真司は青峰を好いているのだ。
そんな当たり前の事実が、今は青峰を酷く喜ばせているのは、やはり雑誌のイメージのせいか。

「今回は全面的に黄瀬君が悪い!あと俺は男だからもしもなんてない!」
「そ、そりゃそうっスけど、今の流れでそれはないっスよー」
「そんで青峰君は胸揉むな!」
「減るもんじゃねーしいいだろ」

開かれたままだった雑誌を素早くつかむと、それを丸めて大男二人の頭をぽかんと叩く。
こんな風に扱われるののは腹が立つけど嫌じゃない。
真司はいつの間にか青峰に抱き締められ、黄瀬に撫でられている状況を受け入れていた。




2014/06/17

本編でスルーした黄瀬が夢主を事務所へ…って話。
しっかりと施されたお化粧のおかげで何とか他の人にはバレなかった模様。

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