黒子のバスケ

□ホワイトデー2014(黒子)
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ばたんっと背後で大きな音が響いた。
放課後、屋上。空は薄ら影っているが、朝降っていた雨は止んでいる。

「烏羽君、ここにいたんですか」
「おはようテツ君」
「おはよう、じゃないですよ。探しました」

そう言って、黒子は一度はぁっと息を吐き出した。
少し頬に汗が滲んでいるのは、教室から体育館から探してくれたのだろうか。
そう思うと少し嬉しい。

「どうしてわざわざこんなところに?」
「ん、たまにはテツ君に俺の気持ち味わってもらおうと思って」
「はぁ…」

黒子の不思議そうな顔に笑いそうになる。
本人は自覚がないのだろう。

「ふと、思い出したんだよね。一年前の今頃のこと」
「…卒業、した頃でしょうか」
「うん。俺、テツ君のことばっか考えてて、テツ君に会いたいなーって、ずっと思ってて、ね」
「そう言ってましたね」

たぶん、その時の黒子は影が薄いとかそういうレベルの話ではなくて。
何か月にも及ぶかくれんぼをし続けていた状況というか。
また思い出して少し悲しくなる。曇った顔を無理やり笑顔に変えて、真司は俯きかけた顔を上げた。

「そう、テツ君にも思わせてやりたいと思ったんだよね」
「だから一日ボクに見つからないようにしてたんですか」
「今日、テツ君は俺に会いたいんじゃないかと思って」

朝から休み時間もずっと、真司はなるべく教室には留まらずに移動していた。
黒子に見つかりたくなくて、だったのだが、思い返すと無駄にトイレにこもったり、かなり馬鹿みたいな事をしていたものだ。

「もし、ボクが君を探さなかったらどうしたんですか」
「どうしたかなぁ。考えてなかった」
「まぁ、実際探したんですけど」

黒子の目が一瞬自分の鞄に移る。
今日は3月14日。日本じゃ大体、一か月前のお返しをする日みたいなものだ。

「結構頑張って用意したんですよ」
「ホント?楽しみにしてたんだよね」

黒子の手が彼の鞄の中に入る。
そこから取り出されたのは、チョコレートの入った小さな包みだった。
まさにホワイトデーって感じだ。

「烏羽君」
「ん?」
「君はボクの太陽です」

突然、黒子が真司の手を掴んだ。
一体今黒子が何を言ったのか…茫然と見つめ返すことしか出来ない。

「大丈夫です。もう、君の前から消えたりはしません」
「なんで、俺が、え?太陽?」
「…自分で考えて下さい」

やっぱり黒子は文学的なことを言うんだなぁ。
そうぼんやりと思いながら、少しずつ恥ずかしくなってくるのは、何となく理解したからだろうか。
じっと見つめてくる黒子から先に目を逸らして、真司は柵の向こうへ目を向けた。

「俺にそんな価値あるとは思えないけど!」

少し投げやりに叫ぶ。
後ろで小さく笑った黒子は、真司の横に並び柵に手をかけた。

「ありますよ。君はとても素敵な人ですから」
「な、んだそれ。余計分かんない」
「分からなくてもいいんです。ボクだけ知っていれば」

ちらと横目で黒子を見ると、何故だかとてもすっきりした顔をしている。
そんな横顔に安心したのは、そこに消えそうだった黒子がいなかったから。
たぶん本当に、もうあの時の黒子はいないのだろう。

「…テツ君、これ、食べてもいい?」
「どうぞ。ゆっくり食べて下さい」

ごそごそと包みを開いて、少し歪な形のチョコを取り出す。
その時初めて手作りなのだということに気付いて。
少し不安に感じながらも口に入れたそれは、予想を裏切った普通のチョコだった。

「あれ、普通に美味しい」
「なんだと思って口に入れたんですか」
「はは」

笑って誤魔化して、雲の切れ間から現れた太陽に目を細める。
そこに見えるのに絶対に手が届かない。
近いようで遠くて。手に入らないのに、無いと生きていけなくて。

「太陽…って…」

そんな、存在。なのだとしたら。

「テツ君、ゆっくり食べるから、ずっと隣にいてね」
「はい」

どうして、こんな気持ちになるのだろう。
本当に消えてしまうのはどちらなのだろう。

真司はとんと肩にぶつかった黒子の体に寄り添った。



2014/03/14

ホワイトデーです。
サイト主は一ヶ月前に父にしかあげてないので、父からしかお返しはありませんでした。

本編の二人がまだくっついていないので、今回の話の二人もまだくっついてはいません。
黒子の片思い。そして真司は…。

あまり力を入れてホワイトデー書いたって
更新待ってる方にとっては本編はよ!だろうと思い
かなり短い話となってしまいましたが

ここまで読んでいただき有難うございました。
 

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