黒子のバスケ

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〇テツヤ二号登場(第74Q)



桐皇対海常の試合があった日のその翌日。

昨日はいろいろあったが…まぁ、それに関しては全て頭から振り払って、足を真っ直ぐに誠凛へ向かわせる。
休む間もなく今日も練習だ。
というより、早く練習がしたかった。

黄瀬は間違いなく強い。海常の実力は知っている。
それでも桐皇には敵わない。

「…はぁ」

じゃあ今の誠凛だったらどうなるのだろう。
考えたって仕方がない。しかし、考えなければいけない事でもある。

「俺も…もっと強くならなきゃ」


そんな事を考えていたから、部活動の開始時刻よりかなり前に学校に着いてしまった。
まだ誰も来ていないだろう。自主練するのが目的だから、それで構わない。

しかし、足を運んだ部室は既に小さく扉が開いていた。

「あれ…おはようございます…?」

まさかもう誰か来ているのだろうか。
驚き半分で覗いてみれば、大きな体がもぞもぞと動いている。

「おー、おはよう。ずいぶん早いなぁ」
「木吉先輩!?せ、先輩こそどうしたんですか?まだ練習まで…」

いつから来ていたのか、木吉は既に制服のボタンをぷちぷちと外しにかかっていた。
ちらと時計を見てみれば、真司が思っている“早すぎる”時間で間違いない。

「いやぁ、居ても経ってもいられないっていうかな。烏羽は?」
「あ…俺も、です。もっと強くならなきゃって思って」
「だよなぁ、うん。いいことだ」

うんうん、と首を縦に動かしながら、何故か嬉しそうに笑っている木吉を横目で見る。
制服の下に練習着を着ていないのか、脱いだワイシャツの下から筋肉のついた肌色が覗いていた。

そりゃ今更確認するまでもないが、恐らく誠凛で一番…もしくは火神に続くくらいの肉体の持ち主だ。
それでいて背も高くて、真司なんて片手で持ち上げられてしまうだろう。

「…」
「ん?なんだ?」
「あ、いえ。木吉先輩ってどうしてそんなに大きいんですかね。かなり羨ましいです」
「あー。なんでだろうな。でもオレは、烏羽もすごく可愛くて魅力的だと思うぞ」

にこりと笑う木吉は、彼なりに真司を褒めているつもりなのだろう。勿論嬉しくなんてない。
そんな真司の心境を知る由もない木吉がぽんぽんと真司の頭を撫でる。
真司はその手を弾くと、木吉の服をぐいと彼に押し付けた。

「…なんでそんな見せびらかすんですか。早く服着て下さい!」
「お?何怒ってるんだ?」
「お、…怒ってはないです。羨ましいって言ったじゃないですか。オレなんてこんな」

こんな、と言って自分の体を見下ろせば、当然あまりにも違う体がそこにある。
途端に虚しくなって、真司はため息を吐くと、何事も無かったかのように制服のボタンを外し始めた。

「今更でした。分かりきったことなのに」
「そんなに嫌なのか?」
「そりゃあ…バスケなんてそもそも体格勝負みたいなとこありますし」

だからこそ、足だけ鍛えた自分のスタイルで何とかやっているのだが。
相手がキセキの世代となってくると、どこまで通用するのか。

急にネガティブになって、ぷちぷちとボタンを外していた手が止まる。
それを見越していたかのようなタイミングで、真司の手を木吉が掴んでいた。

「木吉先輩?」
「あれ、すまん。手が勝手に…」

ふと木吉を見上げた真司は、その距離の近さに気が付いた。
ロッカーと木吉に挟まれて、なんとなく身動きを封じられているような。

「あ、あの…木吉先輩…」
「なんかな、お前を見てるとこう…何て言うんだっけなぁ」

身長差のせいで自然と真司に影がかかる。
試合中にはあまり気にならないが、やはり目の前に立たれるとかなりの威圧感だ。

「き…木吉先輩…?」
「そうか。あれだ、ムラムラするんだ」
「は…え…!?」

木吉が腰を曲げて顔を近付けてきた。
優しそうな顔。のはずなのに、男らしくて、肩を掴む手が大きくて、不覚にもドキリと胸が鳴る。

「せ、」
「なんだろうな、こういう感情ってのは」
「それは、俺が…」

そういう側の人間だから。
ふと頭から弾いていた昨日の事を思い出して頭が熱くなった。じわじわと、掴まれている手が汗ばんでいく。
木吉の手は真司の腕を放し、あろうことかシャツの下に手を入ってきていた。

「うわ…っ」
「胸、は無いんだよなぁ」
「せ、先輩!?」

この人はどこまで本気なのか。
撫でるように胸を触り、不思議そうに真司を見下ろしている。

「いやでも貧乳って可能性もあるのか?」
「そんなわけないじゃないですか!や、貧乳ではありますけど!」
「だろ?オレはまだ可能性を諦めないぞ」
「ってどこ見てんですか!」

胸じゃ分からん、とでも言いたげな視線が真司の股間に向けられる。
まさか本気で疑っているわけではなかろうが、木吉の手は真司の腰を掴んで。

「先輩?そろそろいい加減に…」
「んー?」
「っ!」

腰をなぞる手にぞくりとして、ロッカーに背中をぶつける。
文句を言おうと木吉を見れば、手も体もいつもの穏和な雰囲気のせいで忘れがちだが本当に男らしくて。

触られてるんだから、触ったっていいだろう。
ふと、真司が木吉の胸板に手を伸ばした時だった。



「こら」

かたんと部室のドアが開いた。
そこから怪訝そうな顔を覗かせているのは伊月だ。

「おお、伊月早いな」
「お前たちもな、じゃなくて。何してんだよ全く」

ぴしっと伊月の手が木吉を叩く。
普段ダジャレからの突っ込みを受ける人間とは思えない、鋭い突っ込みだ。
とかいうことはさておき。

真司はようやく冷静になると、ワイシャツの前を両手で押さえた。

「い、伊月先輩…」
「大体状況は分かってるよ。ったく、木吉、烏羽は男だって言ってるだろ」
「いやまあそうなんだけどな、自分の目で確認しないと分からないだろ?」

どうやら木吉は二年生の間でも真司の事を話す事があるようだ。
真司が女なんじゃないか?という事について。


「確認しなくても男の子だよ。オレ達一緒に風呂入ったしな」
「そうなのか!?」
「な。烏羽?」
「は、はい…、それはそうです…ね」

確かに伊月とは同じ風呂に入った裸の仲だ。
恥ずかしいので思い出したくはなかったが。

「伊月ー、それは抜け駆けっていうんだぞ?」
「はいはい。さ、早く練習始めよう」

そう言って素早く支度する伊月に感謝して、真司も素早く練習着に着替える。
その間も木吉は何となく不服そうに声を漏らしていたが、気にすることはないだろう。
何せ自分は男で間違いないし、それを証明したからといって、木吉は満足しないのだろうから。




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