Junk置き場
□帝光黒子と長編夢主
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〇まだ親しくない頃の印象
大して興味があることもなく、何かが楽しみで学校に来ているわけではなかった。
特に深い友好関係を築けていないのも原因の一つだろう。
「颯希、お前はまた学年2位だったぞ」
良くやったな、そう感心されながら返されるテストにも嫌気がさす。
どうせまた学年トップは“赤司征十郎”という天才で間違いない。
「(どこの暇人だよ)」
一位になりたいという願望のもとテストに挑んでいるわけでもないが、自分の上にいつも同じ人間がいるとなれば嫌でも目につく。
颯希はぐしゃぐしゃと頭をかいて席に着いた。
机の上に広げられたのは、一問間違いの丸ばかりつけられたテスト用紙。
ということは奴はまたしても満点か。
以前颯希が満点だったときには、赤司と同着一位だったと聞かされた。
全く腹が立つ。
「(…むしろ超人だよここまで来ると)」
実はサイボーグか何か人外的なものなのでは。
そんな現実味のないことを考えていた颯希は後ろから聞こえた「あ」という声にびくりと肩を揺らした。
驚いて振り返ると、困った顔をしている男子生徒と目が合う。
「…どうしたの?」
「あ、すみません。ボクのテスト用紙が返って来ていなくて」
「え」
「良くあることなので気にしないで下さい」
ぺこ、と頭を下げた男子生徒は席を立つとそのまま担任の元へと歩いていく。
担任は、結局声をかけられるまで彼の存在に気づかなかった。
かくいう颯希もそれは同じで。
「お、あぁ!黒子、すまんすまん!」
“黒子”という生徒はいつから颯希の後ろにいたのだろう。
というか、同じクラスにいることさえも知らなかった。
余りにも薄いその存在感に、目を逸らしたら忘れてしまいそうで。
「なんだか大変そうだね。“黒子”君?」
「かくれんぼなら負けません」
「あはは、面白いね」
受け取ったテスト用紙を丸めながら、黒子は少しだけ寂しそうに笑った。
その丸められた隙間から覗くのは、68という点数。
記憶にも残らなそうな、中途半端な点数だ。
「今、見ましたか…?」
「68点」
「北条君には見られたくなかったです…」
黒子の視線は颯希のテスト用紙に向けられている。
きっとこの黒子の中にも北条颯希は頭が良い人、というくらいの印象しかないはずだ。
大して仲良くない生徒へのイメージなんて、大体そんなもの。
颯希は再び前を向いて自分の用紙を見つめ、くしゃっと適当に折り畳んだ。
・・・
黒の中にうっすらと紫に光る色素。
ぼんやりとその髪が艶やかに光るのを見るのが好きだった。
(たぶん、彼はボクを知らない)
こうして後ろから颯希を見ていることも、ここに座っていることも。それでも良かった。
後ろの席を得た黒子の特権だったから。
颯希の髪がこんなに綺麗だと知る人もきっといないのだろう。
「ねぇ、北条くん。ここ分からないんだけど、教えてくれない?」
「え…。ごめん。俺教えるのって苦手だから」
「出し惜しみしなくていいじゃん!」
「いや…本当に、ごめん」
けちー、と頬を膨らませる女子生徒に、颯希の手がぴくりと動く。
黒子は知っていた。颯希がほとんど勉強なんてしていないことを。
恐らく、本当に教えるという行為は苦手なのだろうが、そんなものが他の生徒に分かるはずもなく。
「はぁ…」
吐き出された颯希のため息。
颯希はその真面目そうで無愛想に映る外見より遥かに繊細なのだ。
その外見といえば、長い前髪に黒渕眼鏡をかけている背の小さな少年なわけだが、それは体育の授業で行われた体力テストによって大きく崩された。
「ねぇ、見た?」
「見た見た!」
こそこそと話している女子生徒の目線の先には颯希。
目を奪われるのはその足の速さだけが原因なのではなかった。
見たことがなかった、彼の内側の感情が溢れ出ている。
目を輝かせて、楽しそうに口を逆三角形に描いて。
走るのが好きなのだと無意識にそう思わせる。
それと同時に感じたのは、そんな足をもっていながら何故生かさないのかという当たり前のように抱く疑問。
バスケが好きで、それでも何の才能もない黒子はいつまでも底辺に残り続けている。
「…」
もったいない。
羨ましい。
「ボクが欲しい…」
それは、彼の才能か、はたまた彼自身か。
「ボクに…」
俯いて、地にただ立っている自分の足を見下ろす。
きっとこの思いは届かない。どんなに求めても手に入らないもの。だからこそ欲しくなるのは人の性といったところか。
黒子は気付かれない視線をずっと颯希に向けていた。
(終)