Junk置き場

□宮地清志と不良生徒会長
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学年最後の文化祭を目前とした秋の日。
秀徳高校3年生の宮地は、その日もぼんやりと椅子に座ったまま窓の外を眺めていた。
ほんの少しの休み時間にも精を出すのだ、昼休みなんか休む気ない奴等ばっかりだ。

「宮地君、座ってないで手伝ってよ」
「あ?知らねーし」
「知らなくない!説明したじゃん!」

やる気満々の女子たちを横目にはあっとため息をつく。
教室の飾りなんてなんだっていいだろ。
そう思う男心は接して宮地だけのものではない。面倒くさそうに駄弁りながら手だけ辛うじて動かしている者ばかりだ。

「宮地君、背高いんだから上の方のさあ」
「上の方?僕でも手伝えることかな」

引く気のない女子生徒にうんざりと目を逸らした時、爽やかな声がそれを遮った。

「あ、北条君」
「なんなら君達も少し休んだら?」
「そういうわけにはいかないよ!後少しだし!」

爽やかな声の正体は、北条颯希。
ダサい黒縁眼鏡をかけて、サラサラの黒髪は特になんの洒落っけもないクラスメイト、もとい生徒会長だ。

「あ、そうだ北条君。もう少し材料費かかりそうなんだけど、なんとかなるかな?」
「ん?領収書あれば、こっちで対応しとくよ」
「ほんと?有難う!」
「他にも何かある?今のうちに言ってくれればまとめて持ってくよ」

大して興味など持たれない生徒会長という存在。けれど彼は違った。
良く働くし融通も利くし、信頼も厚い。
そんな生徒会長は、ちらりと宮地を見て笑った。

「でもたまには手伝ってくれよ?」
「…分かってるよ」

この生徒会長に言われては、何となく申し訳なくてそう返す。
するとふわりと柔らかく微笑んだ生徒会長は、根強く離れなかった女子生徒もろとも宮地の目の前から立ち去った。

「…はあ」

よくやるものだ、と何気なく思う。それと同時に自分とは違う世界で生きている人間だなと一線引く。
結局自分にとって彼はその程度の存在でしかない。

その程度でしかないと、思っていた。




・・・



生徒会長への純粋な尊敬を抱いた日とは別の昼休み。

「「あ」」

クラスの忙しなさから逃れるべく、何気なく校舎の裏へと足を進めた宮地は、その先でしゃがんでいた男を見つけた。
見事に二人重なった声。
しかし、その後先に声を上げたのは宮地だった。

「おま、生徒会長…!」
「こんにちは、宮地君。こんな所で会うなんて奇遇だね」

何ともないといった様子で笑ってみせる生徒会長。
だが、宮地は確かに視界に捕らえていた。その彼が手に持っていたものを。

「今、その手の…」
「ん?ああ、見られてたか」
 
誤魔化せるとでも思っていたのか、颯希は微かに擦らせたつま先をひょいと上げた。
細かな灰を落としたそれ。
そういう生徒もいるのかもしれないが、あまりにも真面目な生徒会長とは不釣り合いだ。

「お前…いっつもここで吸ってんのか 」
「ん?いや、今日は偶然、かな」

ぱっと立ち上がりながら、いつも通り変わらぬ笑顔をこちらに向ける。
けれど、もう宮地には、それがいつもと同じものには見えていなかった。

「偶然?なわけねーだろ、火も持ってて」
「あれだけ善人やってて、ストレスたまらないわけないだろ?」
「はあ?それが素かよ生徒会長」

多少なりとも騙されたことへの怒りもあるが、それ以上に呆れが大きい。
宮地はがしがしと頭をかいて、冷静に眼前にいる男を睨んだ。

「箱、出せよ」
「箱?」
「それ、体に良くないだろ」

あまり他人のすることに口を出したくはない。
けれど、自分の体を自ら傷つけるような、そういう行為はどうしても許せなかった。
自然に手を颯希に差し出し、「ほら」と強く言う。

「ふ、ははは!」

すると、暫く目を丸くしていた颯希はけらけらと笑いだした。

「この状況で俺の体の心配するんだ!」
「は?」
「普通…もっとあるだろう?」

あはは、とさらに大きく笑い、目尻に浮かんだ涙を拭う。
それから思いの外素直にポケットから取り出した箱を、その宮地の手にぽんと乗せた。

「はい」

初めて手に持つそれに、宮地は少し物珍しげにそれを見てから、くしゃっと強く握った。
こんなもの、早々に捨ててしまおう。

「絶対に、落とさないでね。捨てるにしても校内じゃ駄目だよ」

宮地の考えに気付いたのか、当然すぎることを言って宮地の肩をぽんと叩く。

「てっめ、あんま調子のってっと轢くぞ」
「はは、面白いな宮地君」

さすがにここまで何とか抑えていた悪態を吐いて、その箱を颯希向けて投げる。
けれど颯希はさらりとそれを避けて、ひらりと手を振った。
そういえば体育でもそこそこ目立つ程度には運動神経が良いんだったか。

宮地は悔しさに握り締めていた手を開いて、地面に落ちたそれを拾い上げた。
何故こんなにも悔しく感じているのか、その時は考えもしなかった。





(終?)


宮地と小さなクラスメイトを書く前に本格的に書くつもりだったネタ。
結局知り合うきっかけだけ書いて放置でした。


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