Junk置き場

□一目連(地獄少女)
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*親からの性的虐待を受けている男主





地獄通信。
その噂を聞いたのは、偶然だった。

「地獄通信って知ってる?」
「知ってるー。0時にアクセスすると繋がるってサイトでしょ?」
「地獄少女が来て、恨みの相手を地獄へ流してくれるんだって」
「やだー、こわーい」

楽しそうに女子生徒が話す内容は、余りにも残酷で恐ろしいもので。
それでいて、酷く惹かれた。




・・・




ばたんと音を立てたドアに、颯希は姉の手をぎゅっと握りしめた。
奴は必ず姉の部屋を訪れる。

「颯希…」
「大丈夫。俺が、ちゃんと引きつけるから…」
「でも、颯希が」
「あと少しの辛抱だろ。高校卒業するまで…それまでの…」

堪えきれない恐怖が二人の声を震わせて、自然と手に力が籠る。
しかし、すぐにその繋がりを切りに男が部屋に入って来た。

「またこんなところで…姉弟仲がいいこった」

いやらしい目。
人を人として見ていない目だ。
今日も、この男は性欲を満たす為だけに食い散らかす。

「父さん…。姉さんには、手を出すなよ…!」
「逃げずに構えて…本当は好きなんだろ、なぁ」
「っ、痛…!」

きつく腕を引かれて、ベッドへと押し倒される。

目で姉に部屋を出るように訴え、ぱたんとドアの閉まる音に安心し、胸を撫で下ろした。

その間にも脱がされて行く服。
颯希は汚い男の顔を見たくなくて、ぎゅと目を閉じた。




離婚して、新しくやってきた父。母が選んだ相手。
確かに二人は愛し合って結婚したのだろう。しかし、男は子供が嫌いだった。

「痛い…、痛ッ」

何度夜を繰り返しても、終わりは来ない。
逃げ出そうと考えたこともあった。けれど逃げたところで行く宛などない。
守ってくれる母親ももういない。まだ高校生の姉弟に出来ることなど何もなかった。




・・・



「痛…」

ずきっと腰に走った痛みに、よろけた颯希は壁に手をついた。

学校に来ている間は父からの束縛から解き放たれる。そう思っていられたのも最初だけ。
今はこうして思い出してしまうし、何よりも、自分がいない時に父と姉が二人になるようなことがあったらと思うと怖くて仕方がない。

「…っ」
「ちょっと、どうしたの!?」

ずるりと倒れそうになった体を、細い腕が支えていた。
艶っぽい女性の声。この学校の保健の教師、曽根先生だ。
優しくて、生徒に慕われている先生。

「あんた、熱あるじゃないの。こっち来なさい」
「痛!」

ぐいっと引かれた体は痛みを覚えて、思わず声が出てしまった。

「あらやだ…体も痛むの?駄目よちゃんと休まなきゃ」
「曽根先生、どうかしたんですか?」
「あ、石元先生。この子、具合悪いみたいで…。運ぶの手伝ってくれます?」
「いいですよ」

今度はもう一人、格好いいと噂の石元先生が近付いて来て、颯希の腕の下に手を入れた。
ひょいと軽く持ち上げられて、勝手に連れられて行く。
保健室に行くだけ、この人達は優しい人。分かっていても植え付けられた恐怖が襲いかかってくるのを抑えられなくて。

「は、離して下さい…っ、お願い…!」
「おい、こら。暴れるなって」
「そうよ。大人しくしなさい」
「俺は、俺は…」

掻くように石元の服を掴む。
その手はやんわりと包まれて、ぽんぽんと優しく頭を撫でられていた。

「ま、とりあえず落ち着け。話しすんのも保健室行ってからだ、な?」
「…す、みません」

低くて落ち着く声に、自然と颯希の体に入っていた力が抜けた。
体が痛くて、気持ち悪い。触れられる感触がなくならない。
それでも、颯希はゆっくりと目を閉じた。


暫くすると、扉が開く音がして、それからすぐにきしっというベッドの音に合わせて体が沈んだ。

「体、痛むのか?」
「はい…」
「どこが痛い?」
「はいはい、石元センセ。ここからは私の仕事です」
「…そーだったな」

じゃあ後は宜しく。そう軽く告げて石元が去って行く。
颯希はそれをぼんやりと見送って、それから曽根に目を向けた。

「全くもう、無茶して…。親には体調が悪いこと、言わないの?」
「…大丈夫だと、思ったんです」
「自己管理ってのも大事なのよ?今日は早退しなさい」
「…」

優しさ故の言葉が、颯希の胸に突き刺さった。
今日父は何時に帰宅するのだろう。

「…先生」
「ん?」
「地獄通信…って、知ってますか…?」

自分の手を汚さずに、憎い相手を地獄へと落としてくれる。
そんな都合の良い話を信じているわけではない。
しかし、そんなものに縋りたくなるほど、体が追い詰められていた。

「噂には聞いたことあるけど…。それがどうかしたの?」
「この人さえいなければ。そう思うことが、多くて」
「そう…。でも、辛いことがあるならまず、親とか先生とかに相談してみなさい?」
「…」

きゅっと唇を噛む。
誰に言ったって同じだ。
先生に言ったって、親に伝わって、辿り着く場所は同じだ。

「親が憎ければ…どうしたら良いんですか…?」
「北条君…」
「あはは、冗談です…。忘れて下さい」

誰かに相談、なんて出来るはずがない。
親に凌辱されているなんて、どんなに優しい先生相手にだって、言えるはずがない。

「…暫く、楽になるまでここで寝てていいから、ね?」
「…」

有難うございます。
そう、返事をすることすら億劫で。
颯希はきゅっと布団を強く握りしめ、顔を覆い隠した。



・・・



重い腰を何とか動かして、颯希はまだ昼間だというのに家に着いた。
先生に背中押されるがまま、早退することになってしまったのだ。

鍵を指し込んで、ゆっくりと回す。
家に入るのが怖くなったのはいつからだろう。再婚して、共に暮らす様になって、幸せになれると思っていた時期は短かった。

「…おかえり、颯希」
「と、」

本性を見せるのは、とても早かった。きっと、端からこうするつもりだったのだろう。
ぐっと腕を掴まれて、有無言わせず部屋へと引っ張られて行く。
抵抗しようと腕を引けば、父の口角が吊り上げられた。

「お前がそんな態度なら、次からはお姉ちゃんかな」
「…っ」
「ほら、気持ち良くしてやるんだから…。早く脱ぎなさい」
「く、そ…」

嫁入り前の姉の体に、こんなこと。させるわけにはいかない。
体を這う男の手に、颯希は体を強張らせて、口を閉ざして。ただじっと耐えていればいつか終わるから。

「い…!」

容赦なく体に突き刺さる圧力に、颯希の涙がぽろっと零れた。
今日はいつまで続くのだろう。絶望にも似た感覚を胸に抱く。

「はぁ…はは、お前の中は良く締まって気持ちがいいよ…」
「っ、ふ…ッ、ぅ…」

枕に顔を押し付け声を抑える。頭上から聞こえて来る息や声、下の方から聞こえる肌のぶつかる音。
全てが気持ち悪くて、しかし現実で。

「ぜ、ってぇ…許さ、な…」
「許さない?じゃあどうする?殺しでもするか?」
「…っ」

ギッというベッドの軋みが激しくなるのと同時に、息遣いも打ち付ける音も全部増して行く。
気持ち悪い、それでも、すぐ終わる。

颯希は痛みとそれ以外の刺激に耐えながら、きつく閉じられた目から涙を流した。



・・・



朝、重い体で再び学校へ向かう。
学校は好きではない。体だって万全の状態でない。それでも行くのは、あの最悪な時から離れられるからだ。

「おはよう、今日は…まだ体調悪そうだね?」
「…石元先生」
「んー…熱もちょっとある、かな」

石元は毎度恒例とでもいうように颯希の顔を覗きに来た。
頬に手をあて、額に手をあて、心配そうに眉をひそめる。

「先生に…何でも言ってくれていいんだよ」
「…」
「それとも何か、言えない事情がある?」

言えない事情。
颯希ははっと息を吸い込み、石元から目を逸らした。

「何もないです」
「んー、なかなか強情だなあ」

そろそろ気を許してくれてもいいのに。
そう言って笑う石元に対し、颯希は首を横に振った。

優しくされればされる程、気が緩みそうになる。
この優しさに逃げたくなってしまう。

「…どうして、そんなに俺のこと、気にかけてくれるんですか」
「ん?大事な生徒だからに決まってるだろ」

その瞬間、ズキリと胸が痛んだ。
思わず顔をしかめると、石元はまた慌てた様子で颯希の顔を覗き込み肩を抱く。

「ああほら」

無茶するからだよ。
男の低い声が耳元で響く。
男の大きな手が体に触れている。
それなのに全く違う熱が体に帯びて、颯希は無意識に石元の体を力の無い手で突き飛ばしていた。





(終?)




全く続きを書く予定のない代物です。
書く予定がないのでネタバレしますが…


この後石元先生とすごく親しくなって、少し心が晴れてきた男主。
しかし男主の知らないところで姉も被害にあっており、帰宅すると姉が自殺していた。
地獄通信へ。
父を地獄に落とした直後、男主も自殺。

あまりにも可哀相な男主を一目連が何とか説得して、救い出す…
っていうところまで考えていました。

 

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