FAIRY TAIL

□一時の休息
1ページ/4ページ

評議員から出たフェアリーテイルへの判決は無罪だった。
ギルドは無くなってしまっていたが、新しく建てる作業を重ね、今では仕事が行えるほどになっている。

「仕事かぁ…」
「皆やる気満々ね。ロアも行けば?」
「んー…」
「また面倒くさがって…」

カウンターに体を預けているロアを見て、ミラは困ったように笑った。最近のロアはギルドを建てる作業には随分協力しているものの、その分他のところでは疲れて何もしていない。
あくびをして、今にもこのまま寝てしまいそうだ。


「もう一ぺん言ってみろ!」

急に、エルザが怒鳴り声を上げた。
驚いて眠気も吹っ飛んでしまいロアは顔を上げて振り返った。近くにテーブルが飛んできて、ナツがつぶれている様子が見える。

「…なんだ?」

怒っているエルザの眼前には、今まで何もしてこなかったくせに堂々と椅子に座って文句ばかり言っているラクサス。

「ファントムごときになめられやがって、恥ずかしくて外も出れねーよ」
「…貴様」

エルザが怒るのも当前だ。手を貸さず今まで姿を消しておいて、終わってから文句を言いにわざわざギルドに来るとは、いいご身分なこった。

ロアも腹が立ったが、ラクサスに絡むと面倒事になるということは良くわかっていたから、口を出すつもりはなかった。

「おい、ロア、てめーだよ」
「…え」

スルーするつもりだったのに、ラクサスの方が突っかかってきた。イラっとしながらも、ロアはラクサスを黙って見つめる。

「お前、捕まった挙句ガジルに掘られたって?」
「…掘られてねぇよ、少し…ちょっかい出されただけだ」
「はっ、情けねぇなぁ」

ぴきっと額に筋が入る感覚。耐えろ、ラクサスの挑発にのってしまえば、向こうの思うツボだ。

「なんならオレにもやらせろよ。なぁロア」
「…あー…うっせぇ…」

ファントムの時のこともそう、自分の短気さが招いたともいえる。怒りに震える手を必死に抑えた。

その時、ロアの代わりにとでもいうように、ミラの手がカウンターを強く叩いた。ばん、という音がして振り返れば、ラクサスを睨みつけるミラの顔がそこにある。

いつもそうだ、ラクサスが来ると、こういう嫌な空気になる。

「ラクサス!もう全部終わったのよ。戦闘に参加しなかったラクサスにも、マスターはお咎めなしって言ってくれてるんだから…」
「当たりめぇだろ、オレは関係ない」

オレがいれば、こんな不様なことにはならなかった。そう言って笑うラクサスに、とうとうエルザも怒りで殺気を露わにした。

「ラクサスてめぇ!オレと勝負しろ!」

しかしそこでラクサスに突っ込んで行ったのは、エルザでもロアでもなく、ナツだった。
そんな正面からの攻撃を受けるほどラクサスは弱くない。当然さっと避けて高らかに笑ってみせた。

「オレが継いだら、弱い奴もはむかう奴も、皆排除してやる!そして最強のギルドをつくってやるよ!」

笑いながら立ち去っていくラクサスを誰も追わなかった。追わずにその背中を睨みつけるのは、ラクサスに敵わないことを知っているから。
手を出さないのではなく、出せないのだった。


「くそ…あんな奴がマスターになるとか…全力で阻止してやる…」

ぼそりとロアが呟くと、それが聞こえたらしいルーシィが傍に寄ってきた。

「ラクサスが継ぐって…そんなこと有り得るの?」
「あぁ。あれでもラクサスはマスターの実の孫だからな」
「えぇ!?」

驚くルーシィに、ロアははぁと大きなため息を吐いた。こんなこと、嘘ならいいのにと本当に思う。仲間思いのマカロフに対して、ラクサスは真逆にも程がある。

「実際のところ、次期マスターの話なんて一言もマスター本人はもらしてないんだけどね」

会話に混ざってきたミラも苦笑いで答えた。あくまで噂。
ラクサスが一番マスターに近いけれど、今のラクサスをマスターに昇格させるのにはどう考えても問題があって。だからマカロフはなかなか引退出来ないのではないか、ということ。



「もう、ラクサスの話はいいだろう。それより、仕事にでも行かないか」

その言葉はエルザからナツに向けて言われたものだった。そしてエルザの指はグレイとルーシィにも向いている。

「アイゼンヴァルトの件から常に一緒にいる気がするしな。この際チームを組まないか?」

もはやフェアリーテイル内でも有名になっている、最強チーム。むしろ、まだ結成していなかったのかとロアは突っ込みを入れたい気分になった。
ていうか、やっぱりその四人なんだなぁと切なくなったりして、体をカウンターの方に戻す。

「いや、オレはロアが一緒じゃなきゃ嫌だ」

ナツの手がロアの腕を掴んで、立ち上がらされた。椅子ががたん、と倒れる。

「な、ナツ…?」
「オレ、ロアを守るって決めたからな」

ナツに握られているところから、顔まで一気に熱くなった。
そんな我が儘言うなよ、と言ってやりたいのに、喉が詰まったように上手く言葉が出て来ない。

「そうだな。ロアもどうだ?」
「あ…え、うん…」
「では、ロアも入れて五人…ハッピーも入れて六人だな」

ハッピーもわーいと喜んでいる。なんだか小っ恥ずかしくて、ロアは素直に喜ぶことが出来なかった。




・・・



彼らが向かったのは、オニバスの街。マグノリアよりも商業の盛んな街だ。
最強チーム、というのは確かなのかもしれないが、この面子が揃うと物が壊す可能性が高い。
そのためにミラが渡してきた仕事は、客足の遠のいている劇場を魔法で盛り上げろというものだ。

「あたし達がするのは、あくまで演出…だからね?」

あーあーと発声練習を始めたエルザにルーシィは苦笑いしながら伝えている。
その後ろでは列車酔いしたナツがふらふらになっていて、最強というにはなんとも不甲斐無い姿だ。

「ナツ、大丈夫かよ…」
「列車には、二度と乗らな…ぅぷ」

ロアはナツに腕を貸して後を続いた。



暫く歩いていくと、大きな会場に辿り着いた。思っていた以上に立派な建物で、ロア達は見上げておぉ…と声を漏らす。
その大きな扉を開けて出てきたのは、依頼主であるシェラザード劇団の座長、ラビアンだ。


「フェアリーテイルのみなさん、引き受けてくださり誠にありがとうございます」
「はい!演出なら任せて下さい!」

自分で小説を書く趣味を持っているルーシィは、いつか舞台化するときのために、などと夢を見て人一番やる気に満ちている。
しかし、ラビアンは申し訳なさそうに扉の影に隠れた。

「実は…役者が全員、いなくなってしまって…」
「…は?」

思わずロアが低い声を出してしまったために、ラビアンは更に壁の向こう側に姿を隠してしまった。

そのまま全員中に入り話を聞くと、舞台が不評続きであったために、役者が皆逃げてしまったのだと言う。

「で、舞台は中止…か。俺達は無駄足だったってことね」
「待て、ロア。よく考えてみろ。役者はここにいるではないか」
「え…エルザ?」

エルザの目がキラキラと輝いている。嫌な予感がして恐る恐る周りを見ると、ロア以外の全員がなんとなくやる気を出し始めていた。

「楽しそうじゃない!」
「オレは何の役をやったらいいんだ!?」
「アンタの夢はこんなトコロじゃ終わらせねぇよ」

無駄にかっこいいことを言っているグレイはさておき、ロアは首を横に振った。

「な、何言ってんだよ!出来るわけないだろ!」
「そんなのやってみなきゃわからないじゃない」
「そ…」

ルーシィの目もエルザと同じようにキラキラと光って、もう既にやることを前提としているようだが。ロアはラビアンにこそっと声をかけた。

「あいつら、勝手に話進めてますよ!?いいんですか!?」
「…まぁ、やらせてやってもいいかな」
「嫌なら嫌って言って下さいよ!」

明らかに嫌そうな顔で、素人かぁ…と呟きながらも、ラビアンは許可を出してしまった。

はぁ、と大きなため息を吐くロア。しかし、皆のやる気もみなぎってしまったのでもう何も言えなかった。





次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ