FAIRY TAIL

□光の魔導士
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別段変わったことなどない日常。
いつも通りに始まると思われた朝、フェアリーテイルと書かれたギルドの前で騒ぎは起こった。


「ギルドの前で人が死んでっぞ!」

どたどたと大げさな程に足音を鳴らしながら少年がやって来る。
桃色の髪をしたその少年、ナツは入口の方を指差し、足踏みしたままギルドメンバーに訴えかけた。

「誰か、早く来てくれ!」

いつも朝から騒がしいナツだ。一瞬は誰もが「またナツが騒いでる」くらいに思ったものだが、妙な発言に耳を疑った。
そしてそれが本当ならば、厄介な話だ。“人が死んでいる”だなんて。

「ナツ、それは本当かの?」
「お、おう!こっちだ!」

それを聞きつけて、ギルドマスターであるマカロフまでもが外に出る。
俄かにも信じ難いことだが、ナツがそんな嘘を吐くとは思えなかったのだ。

「ほら、こいつ…!」

そしてナツの言う通り、外に出てみればそこには薄汚れた少年が倒れていた。
ナツが目を揺らがせて、心配そうに見下ろす。
その小さな子供に、マカロフは近付いて静かに手のひらを重ねた。

「な、なぁ…そいつどうだ…?」

恐る恐るナツが問いかける。
じっと少年の様子をうかがっていたマカロフは、ゆっくりとナツの方へ顔を向けるとニッと笑ってみせた。

「寝ているだけじゃな」
「寝てる!?でもコイツ傷だらけ…」

死んでいると疑うのも無理はない、それくらい子供の体には無数の傷がつけられている。
しかし、微かな息に、胸は上下に動いている。
それに気付き、ナツはへたっとその場に座り込んで安堵の息を吐き出した。

「そっか、生きてんのか…!」
「うむ。誰か、こいつを運んでやってくれんかの」

ほっとしたナツの横で、マカロフがぱっと立ち上がった。
死んでいなかったとはいえ、放っておくわけにはいかないだろう。
子供をギルド内へと運び込み、寝かせて体を拭ってやる。
そこでようやく判明したのは、ナツと変わらないくらいの少年であるということ。
そして、痛々しい傷の数々は最近襲われたというよりは、何度も植え付けられたものだということだった。

「可哀相に…綺麗な金の髪じゃないか…」

一人が呟いて、様子を見ていた他の者も強く頷く。
綺麗なのは髪だけではない。その髪見合う程に整った容姿。金と釣り合いの取れている白い肌。

「なぁ、こいつ、目ぇ覚ますよな!?」
「大丈夫じゃよ。暫く安静にしてやってくれ」

マカロフはその金の髪を優しく撫でて、布団をかけた。
包帯を巻かれた体はまだ痛々しいが、命に別状がないならば安心だ。
ギルドの皆もその少年の意識が戻ることを信じて、その場は見守るということでおさめた。


・・・


翌朝。ナツは少年の様子を見る為にいち早くギルドに向かっていた。
どんな風に話すのだろう、どんな風に笑うのだろう。いろんなことが気になって、落ち着いてなどいられなかったのだ。

「ただいま!!」

挨拶も適当に、ナツはギルドの扉を開け放った。
その瞬間目に映った光景に、ナツは言葉を失って目を見開いていた。

「…お、かえり…?」

それは、ナツの言葉に対する返答だったのだろう。
寝かされていたはずの少年は、腰から上を起き上がらせてこちらを見ている。

「おっ、お前起きたのか!体大丈夫か?」

たたっと駆け寄って少年の顔を覗き込む。
少年はびくっと震えた体を反らし、ナツを怪訝そうに見つめた。

「…君は、誰…?」
「オレはナツ!お前は?」
「ぼ、僕は…ロア」
「ロア…お前すげぇ綺麗だなぁ」

思わずナツが漏らした言葉は、その瞳のことを指していた。
髪と同じで金色に輝く瞳は、吸い込まれるような美しさを誇っている。

ナツの煩い声を聞きつけてか、少しずつ集まって来たギルドのメンバーの反応も同じであった。
遠目に見ても分かる。その造形の美しさは、不気味にも感じる程だ。

「もしかして…お前は光の力を持っているのではないか?」
「え…っ」

ロアの姿を見て言ったのはこのギルドに所属する少女、エルザだった。
たんたん、と軽い足音を鳴らしながら近付いてくるエルザに、再びロアは体を強張らせる。
しかしそんなことに構うことなく、エルザはロアを鋭い目で見降ろした。

「そうだろう?」
「…っ、あ、の…」

戸惑い目を泳がせる少年。
突然のエルザの話に困惑しているのは彼だけでは無かった。

「光の力?なんだそれ。あっ!もしかしてドラゴンの!?」
「ナツ、怪我人の前だ。静かにしてろ」
「ぐえっ!」

身を乗り出したナツを片手で吹っ飛ばしたエルザの目は、一度もロアから逸らされない。

光の力。あまり多くは存在しない、珍しい力だ。
目が金色というのはよく言われる特徴の一つであり、美しいと思われる一方で、不気味とも思われる。
少年の見た目はその言い伝えそのものだった。

「ど…どうしてわかったの…?」
「やはりな。…マスター」

小さな声での返答に、エルザは強く頷きながらマカロフに視線を移した。
それに気付いたマカロフも、すぐに少年へと近付く。

「うむ。ロアよ、フェアリーテイルに入る気はないか?」
「え…?」

マカロフの発言に驚いた周りの面々に対し、ロアの強張った体からは力が抜けた。
微かに瞳を揺らし、嬉しそうに口が開かれる。

「いいの…?僕、フェアリーテイルに入りたくて逃げてきたんだ」
「そうかそうか」
「ここなら、僕も受け入れてもらえると思って…」
「勿論じゃ。ようこそ、フェアリーテイルへ」
「…っ!」

マカロフが頭を撫でようと手を伸ばせばロアの体が一瞬びくりと震える。
しかし、頭の上に乗った手が優しいものだとわかると、ロアの緊張は解かれた。

「可愛い子…お前さんは、今からフェアリーテイルの家族じゃ」
「っ、家族…」
「嫌か?」
「ううん…!」

その時、ロアは初めて柔らかく微笑んだ。
この少年の人生を変える大きな出来事であり、またフェアリーテイルにとっても大事な日。

それは、もう7年ほど前の話。
当時13歳だったロアは20歳になった。




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