NARUTO

□我愛羅奪還
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まだ目的地は先なのに、急にカカシが足を止めた。手を横に伸ばして、止まれと合図している。
目の前に、一人誰かが立っているのには全員すぐに気付いたが、それが誰かはわからなかった。

「うちはイタチ…」

ナルトが言った名前で、全員の空気がぴしっと変わった。うちはイタチ、暁の一員でサスケの実の兄。
兄というには、あまりサスケとは似ていない風貌で、落ちついた雰囲気もクールな雰囲気だったサスケとは違って見える。

「久しぶりですね…カカシさん…ナルトくん」

それでも、うちはという一族であることに違いはなく、イタチの目はサスケと同じ、そしてカカシの片目とも同じ写輪眼。

カカシはその写輪眼を持っているために「コピー忍者のカカシ」と他の里でも有名だが、写輪眼の力はコピーだけではない。
イタチは目で敵を自分の幻術に落とすことが出来る。瞳術使いだった。

「イタチの瞳術は少し厄介で…“万華鏡写輪眼”これを食らえば、ほんの一瞬で奴の瞳術にはまることになるぞ」

カカシは一度、イタチの瞳術を食らって相当痛い目に合っている。だからこそ、次はまともに戦えるように分析したのだ。


「イタチはオレがやる」
「カカシ先生!」
「でも、オレだけでもきついから、ナルト、援護を頼むよ」

カカシが突っ込んでいき、ナルトがイタチの影分身を追う。
ナナとサクラとチヨバアは動けなかった。瞳術使いと戦うには、相手の目を見ずに、体の動きだけを見て戦わなければならない。
それが難しいというのもあるし、いざという時、幻術を解く役回りも必要だった。




急にナナの周りが暗くなった。はっとして刀を抜こうとすると、すか、と手が空を切る。腰にあるはずの刀が消えている。

「な、なんで…」

目は見ていない、はず。そこまで鈍臭くはない。
なのに、ナナはイタチの瞳術にはまってしまっていた。
体中、いろんな男の手が這いずり、乱暴に股間を擦られる。服を裂かれそうになって、振り解こうと動かす手は他の手に掴まれた。

「ぁっ…いや、いやだ…っ」

この感じ、知ってる。無力な自分を助けてくれる人は誰もいなかった。だから先生に救われ、カカシと出会って、強くなったと思い込んでいた。

「あ…ぁ…!」

犯される。まだ、こうして犯される。ナナの目から涙が一筋流れた。





「ナナさん!」

急に視界が開けて、体が軽くなった。体にサクラとチヨバアの二人が触れている。
幻術は、他の誰かがチャクラを流し込めば解けるもので、ナナが幻術にかかっていることに気付いて二人が解いてくれたようだった。

「ナナさん、大丈夫ですか!?」
「はぁ、ッ…あ、ありがと…」
「お前さん、幻術は苦手なようじゃな」

ぽんぽんのチヨバアに背中を叩かれて、現実に引き戻される。
幻術は中忍試験の時にもあったが、それもカカシによって解かれていた。自分で対処したことは一度もなかったのだ。
五色に幻術使いは一人もいない。五色にいる以上は必要のない能力だった。



どん、とすごい音が響いて、皆カカシとナルトを見る。カカシのサポートが上手く、イタチを捕まえる事に成功して、ナルトが必殺技である大玉螺旋丸をイタチにぶつける。
その威力はすさまじく、イタチに限らず、その辺りが一気に吹き飛んでいた。




「ナナ!大丈夫だったか!?」

すぐにカカシがナナに向かって飛んできた。ナナが幻術にかかったのに気付いていたらしい。

しかし、カカシがナナに伸ばした手をナナはぱちん、と叩き落としてしまった。
初めて会ったときのような、明らかな拒絶がその目にある。

「ナナ…オレは酷いこと、したりしないよ」
「あ、あぁ…わかってる…」
「オレの手握れる?」
「…ん」

もう一度差し出された手を、今度はぎゅっと握り締めた。そのナナの手は少し震えていて、抱きしめたくなる思いをカカシは目を逸らすことで耐えていた。

「あ…あの、ナナさん、顔色悪いけど…」
「少し、幻術が効いちゃったみたいね」

心配そうに近づいてきたサクラに対し、カカシはナナの代わりに答えた。
幻術には、いろいろあるが、イタチほどの瞳術使いなら、相手のトラウマのような精神的苦痛を見せることも可能だろう。ナナのトラウマなら知っている。
だから、カカシはそっとナナから離れてサクラに任せることにした。

「ナナさん…ごめんなさい、私がもっと早く」
「いや、俺…決定的なくらい幻術に弱かったんだ…。それをわかっていなかった、俺が悪い」

ごめん、ありがとう。元気なく微笑するナナに、サクラは戸惑いながらも、いいえと小さく返事をした。



イタチだと思って戦っていた男は、イタチの姿ではなくなっていた。砂の里の上忍、由良。

もはやナルトの大玉螺旋丸をくらって生きてはいなかったため、確認のしようはなくなってしまったが、変化というにはイタチにしか使えない術を使っていたし、暁に使われていたのかも、裏切っていたのかもわからなかった。

「まいったな。本体は恐らく暁のアジトだ。目的はオレたちの足止めと、情報収集ってとこか」

カカシが言うと、チヨバアも大きく頷いた。

「…明らかに暁の時間稼ぎ…。奴らは既に尾獣を引き剥がしにかかっとる!」
「まずいな。早く我愛羅くんを助けなければ」

我愛羅やナルトのような尾獣を封印された人間を人柱力と呼ぶ。そして、その人柱力は尾獣を体から抜かれると、死んでしまう。
それを聞いたサクラは目に涙をためてナルトを見た。しかし当人であるナルトはいつものように笑う。

「我愛羅は、オレが助けっから」
「ナルト、私はナルトのことを…!」
「さ、早く行くってばよ!」

ナルトは心配されたくないのか、向きを変えて歩き出した。その背中を見つめるサクラの目は、ナルトを思って辛そうに歪んでいる。
ナナは、サクラのように声をかけてやることも出来なかった。



ナルトを追ってサクラが行く。カカシはチヨバアに目で小さく合図を出すと、チヨバアも先を追い掛けた。



その場に残って動かなかったカカシとナナが二人きりになる。カカシは未だ青ざめた表情でいるナナの背に手をやった。

「ナナ」
「わかってる、こんなとこで…足止めてる場合じゃねぇ、よな」
「無理する必要はないよ。誰でも、どうしても耐えられないものってのはある」

ナナは確かに強くなって帰ってきた。しかし、過去を忘れてきたわけではない。

「俺がどんな幻術見てたか、あんたにはお見通し…ってことか」
「…ナナ」
「抱きしめて、くんないわけ?」
「へ?」
「俺のこと、慰めて…くれるんだろ…?」

カカシがナナに何かする前に、ナナの方からカカシに体を預けた。人の体温ほど、安心出来るものはない。

「ナナ、あまりそう…可愛いことばっかりしないでくれる?」
「…うっせぇ」

カカシがナナの体をきつく抱きしめ、それからすぐに体を離した。前を行く三人を早く追わなければならない。本当はこうして離れてしまうのだって許されない。隊で動くというのはそういうことだ。

「ありがと、もう大丈夫…」
「ん。じゃあ行こうか」

先にカカシが飛び出して、ナナはその背中に暖かさを感じながら、すぐ後ろを追った。



・・・



暫く走って行くと、森を抜けて水辺に出た。
そこには特に目立って何かあるわけでなく、どん、と大きな岩が道を塞いでいるだけ。
しかし、その岩に結界の札が貼られているあたり、そこに暁がいるというのは間違いないようだった。

「遅かったな、カカシ」
「いやぁ、途中面倒なのに捕まってね」

その岩の前に立つ丸い頭のシルエット。ガイ班だった。カカシ班の援護に呼ばれ、別の方向から暁のアジトに向かっていたらしい。

「あ…あ…あなたは…!」
「…ん?」
「ナナさん!」

顔を会わせるのは中忍試験以来のガイ班、ロック・リーと日向ネジとテンテン。
ナナの顔を見てぱっと笑顔になったリーがナナの手を両手で握り込む。

「お久しぶりです!ボクのこと、覚えていますか!?」
「え…あぁ…」
「五色に帰ってしまったと聞いていましたが…木ノ葉に戻っていたんですね!」
「ちょっと、リー。ナナさん困ってるでしょ」

脇からひょい、と顔を出したのはガイ班紅一点のテンテン。ナナはこの班で個人的に話をしたことがあるのはリーだけだった。

「中忍試験じゃ、ナナさんと話す機会も戦う機会もなかったから…実はちょっと気になってたんですよねー」
「テンテン、今はボクが…」
「背、高いですよねぇ。年はいくつなんですか?」
「え…19、だけど」
「へぇ、2つ上なんだぁ。大人っぽいわけだ」

きゃっきゃとナナを囲むテンテンと、リーを見てネジは聞こえるように大きなため息を吐いた。五色ナナは確かに興味を引く存在であるが、今はそれをする時ではない。

「はいはい、お話はそこまでね」
「さ、やるぞ!」


カカシとガイの言葉で、ぱっと雑談するのを止める。そういうところはさすがだ。

結界を解く方法は、当たりに貼られている五枚の札を剥がすこと。そうすれば、岩を破壊することが可能になる。

ガイ班が散って、札を剥しに向かった。カカシ班は岩を破壊して、中に突入する。岩を壊す役は、最もパワーのあるサクラが担当することになった。



一発叩き込んだだけで崩れていく岩を見て、ナナは茫然とした。
サクラがこんなパワーを持っていたことも知らない。女って怖いと思った瞬間だった。




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