FAIRY TAIL

□Sランク
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そのすぐ翌日のこと。事件は起こった。
二階の依頼書の一枚がなくなった。それをナツが持ち出していたことをラクサスが見ていたのだ。
Sランクでないものが二階に上がること、更にその依頼書を持っていくなんて言語道断。許されるものではない。

「なんで見ていて止めなかったの!?」
「オレにはドロボウ猫が紙くわえて行くようにしか見えなかったからなぁ」

まさかアレがハッピーとナツでS級行くとは、というラクサスの口元は完全に笑っている。
さすがのミラも怒っているようで、普段の穏やかな表情はなくなっていた。それはロアも同じだった。

「…ほんっと、てめェは…糞野郎だな」
「あ?」

ミラの肩を掴んで押しのけると、ロアはラクサスが足の乗せるテーブルを殴って破壊した。がらがらという音と共に、テーブルは一撃で崩れる。それには、怒っていたミラも目を丸くして茫然としてしまった。

「調子のんなって、昨日言ったよなぁ?」
「おいおい、怒る相手間違ってるぜ。調子のってんのはナツの方だろ」
「ラクサス…覚悟しとけよ」

握りこぶしをもう一度破壊されたテーブルに叩き込むと、ロアは階段を降りて入口の方へ向かって行った。

「ど…どこに行くの!?」
「ナツぶん殴りに行くに決まってんだろ」

その目はあまりにも本気なもので、そこにいたほとんどの者が唾を呑んでロアを恐れた。しかし、一人、グレイがばっと立ち上がった。

「それなら、オレも付き合うぜ」

ロアとグレイの二人はナツの向かった場所…悪魔の島に行くために使うだろう港町、ハルジオンを目指して歩き出した。



・・・


ロアの隣を歩きながら、グレイは久々に本気で怒っているロアを横目で見ていた。普段は笑顔の可愛い美人といった雰囲気が、今はちょっとした闇ギルドのボスみたいになっている。
金の瞳が獲物を狙う獣のようだ。

「そんなとこも…ぞくぞくする」

少し立ち止まって、グレイは後ろから前を歩くロアを見る。隣を歩きたいと思うのも本当。でも、ロアの姿は後ろから見たときも別の美しさがある。
金の髪が光に当たってキラキラと光を放っているように見える。

「グレイ」

急にロアが立ち止まった。

「グレイ…俺本気だからな」
「な、何が?」
「ナツをぶん殴る。その先はお前に任せるから」

グレイはロアの言いたいことがよくわからずに、曖昧に頷くだけだった。


・・・


海沿いの船乗り場に、ナツの姿があった。
いた、というグレイの声にロアも小さくうなずく。
ぶん殴りに行こうと拳を強く握ったロアの目に、もう一人、ナツの隣にいる人間が映った。

「ルーシィ…?」
「なるほどな、ルーシィ連れて行くつもりだったのか、あいつ。ルーシィは規則知らねぇもんな」

グレイの言葉がじわじわと頭に上ってくる。
また、ルーシィ。ここ最近、ナツはルーシィばかり誘う。
ルーシィが来てから、何か自分の中で嫌なものが渦巻くことが多くなった。
そして今は、どうしてもそれをナツにぶつけたかった。

「…おい、ナツ…」
「ん?…あぁ!なんでロアが」
「歯、食い縛れ…!」

驚いていたナツの頬にロアのパンチが入った。遠くまで吹っ飛んでいくナツに、ルーシィもグレイも言葉をなくしている。

「ナツのばーか!てめぇらなんか破門になっちまえ!」

それだけ言い残してロアは来た道を戻って行った。

「え、ちょ…ロア!?」
「あいつ、本当に殴るだけかよ…」

ロアの背中を見送った二人は顔を見合わせてきょとんとしていた。



・・・



なんだよ、ナツの奴。信じられない。
大股でがつがつと歩くロアの目には苛立ちと悲しさの両方が入り交ざっていた。

「仕事に行くときゃ誘えっつったろ…」

自分を誘わずにいつもルーシィを誘う。そこにどんな理由があったって納得いかない。

「ばか。ナツなんてS級クエストでくたばっちまえ」

思ってもいないことを口にして、ロアは首を横に振った。それは駄目だ。そんな本当に有り得るかもしれないことを願ってしまって現実にでもなったらシャレにならない。




「おい、ナツを止めに行ったんじゃねーのか?」

目の前に影が出来た。すっと顏を上げれば、声の主…ラクサス。

「ナツを止める、なんて一言も言ってない。俺はナツをぶん殴るって言ったんだよ」
「いいのか?あいつ、死ぬんじゃねぇ?」
「…黙れよ、殺すぞ」

ロアの体から光があふれ出す。ロアが「光のロア」と呼ばれ、有名であるのには、その戦い方にあった。
体を輝かせながら光に乗って戦うその姿は誰もが一度は目を奪われる。

「ま、戻ってきたところで破門は免れないだろうがな」
「…それは、お前が決めることじゃないだろ…?」
「決まったようなもんってことだよ」

ロアは殴りかかりそうになるのを必死で耐えていた。フェアリーテイルでは決闘という場を設けない限り、私闘は禁止されている。
ここでロアまで問題を起こすわけにはいかなかった。

「ほんと…挑発するのが上手いよなぁ。死に急ぐもんじゃないぜ?」
「死に急いでるのは誰だろうなぁ」

ロアの手がラクサスの首を捕らえた。


「そこまでだ!」

その手はもう一人の手に押さえられていた。

「…エルザ」
「おいおい、邪魔すんじゃねぇよ」

いいところだったのに、と笑うラクサスを睨むだけで、エルザはロアの方を抑え込んだ。
ラクサスの性格はエルザもよくわかっている。そして、ロアの性格も。

「ロア。これ以上何かするなら、私が相手になるぞ」
「…何もしねぇよ。離せ」

ロアの声が落ちついたのがわかり、エルザは体を離した。目はラクサスの方を睨んだまま。

「ラクサス、あまりロアを挑発するな」
「オレは何もしてないぜ」
「もういい、俺が悪かったよ」

エルザがここにいるのは、ナツ達を追ってきたということだろう。結局グレイも二人を止められなかったんだ。

「俺はギルドに戻る。エルザは早く追って」
「あぁ」



それからのこと、あまりロアは覚えていない。
キレたらその場の勢いで動いてしまう気質があるのは自分でもわかっていた。

自分の部屋のベッドの上で目を開けて、あぁ、またキレたんだなとぼんやり思うだけだった。





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