黒子のバスケ

□クリスマス(2014)
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2.赤司と紫原




何となく学校中が浮かれたような空気のまま、その日の昼休みをむかえた。
授業も何だか皆集中していなくて、落ち着きが無い感じはあまり好きではない。
けれど1年に1度だしこんな日もあっていいのかな、なんて思い始めた真司は、あまり周りを気にする事なく弁当箱を机に広げた。


「烏羽ちーん」

覇気のない声が教室の外から真司を呼んだ。
呼び方だけで分かる。真司はぱっと顔を上げて、それからすぐに椅子から腰を上げた。

「紫原君…と赤司君!?」
「烏羽、メリークリスマス」
「うわあ、赤司君もそういうのちゃんと気にする人だったんだ!」
「…お前はオレを何だと思っているんだ」

呆れた目をする赤司と、紫原は異様に楽しげだ。
抱えた袋には、恐らくいろんな人(女子)にもらったお菓子がパンパンに入っているのだろう。

「メリークリスマス、赤司君、紫原君」
「んーメリークリスマス、烏羽ちん」
「二人してどうしたの?」
「赤ちんとはさっきそこであっただけ〜」

ね?と紫原が赤司に言うと、赤司もそうだなと返すだけ。
じゃあ一体なんなんだと思いながら二人を見上げると、紫原は徐に抱えた袋に手を突っ込んだ。

「烏羽ちん、口開けて?」
「え、口?」
「あーん」

紫原の目の前に立つと、その楽しげな瞳がじっと真司を見下ろしていて、何とも威圧感を増す。
ちょっとした恐怖も感じながら、真司は恐る恐る口を開いた。

「口ちっちゃいね烏羽ちん」
「悪かった、な…!?」

開けた口に、紫原が手に持っていた何かをカコンと突っ込んだ。
驚いて目を丸くしている間にも、口の中に広がるのは甘い味。

「え何これ!美味しい、梨!?」
「そー、今朝見つけたんだ〜。烏羽ちん梨好きだったっしょ?」
「うん!美味しい!」

カラカラと舌の上で転がるのは棒つきのキャンディだ。
今まで昼食の時何かに言ったことがある程度だが、自分が梨を好きだと紫原が知っていたとは。
嬉しさと、美味しさとで頬が緩む。

「烏羽ちん喜んでくれた?」
「うん、紫原君有難う!」

そもそもお礼とか代償なしに紫原が自らお菓子を差し出すことなんて滅多にない。
これもクリスマスの力だとしたら、やはり今日は良い日だ。

「そうか…お菓子でそんなに喜んでもらえるなら、オレも何か用意すればよかったな」
「え、いいよ!俺、赤司君が会いに来てくれただけで嬉しいし」

既にポテチを頬張り出した紫原の隣で、赤司は顎に手を当てて眉間にシワを寄せている。
お菓子をもらって嬉しいのは確かだが、別にそういうことを求めているわけではない。

「俺も何も持ってないし…」
「…烏羽」

やっぱり自分も何か用意するべきだったのかな。
しゅんと眉を下げると、赤司の手が頭を上にぽふんと乗せられた。

「あまりはしゃぎ過ぎて怪我をしないようにな」
「そ…そんなガキじゃないし…」
「そうかな」
「そうだよ!」

頭を撫でた赤司の手がするりと頬に落ちてくる。
頬を撫でる赤司の手は思いの外暖かい。
すりと自ら頬を寄せると全身にその暖かさが広がるようで、真司は目を閉じてふふっと笑った。

「え〜何それ、烏羽ちん、赤ちんに対して反応違くね〜?」
「そんなことないでしょ」
「ある!赤ちんズルい」
「別にずるなんてしていないだろ」

急にムッと膨れた紫原が面白くて、赤司と二人で目を合わせて笑う。
頬から離れてしまった手の温度は少し名残惜しかったけれど、口に広がる甘さはまだずっと続いていた。






2014/12/25
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