メビウスの輪
□第九夜
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「イヴ」
聞こえて来た声に、私は顔を上げる。
そこには私のことを心配そうな顔で見つめたドラコがいた。
『ど、ドラコ……』
「何情けない顔をしてるんだよ」
眉をハの字に下げてオロオロとする私を見て、ドラコはため息を吐いて私の頭を撫でる。
朝の、まだ誰もいない廊下。
今日はクディッチの試合の日で、授業は一日休みだ。
だから恒例のようにレオを預けなくてもいい日なのだが……
昨日のハロウィンの日のことを、私はきちんとセブ先生と仲直りできていなかった。
仲直りという言い方もおかしいけど……。
レオも、あれからは母さんやおじいちゃんに言い訳して預けていて、セブ先生のところには気まずくて行けなかったのだ。
それを、とりあえずドラコに先生の言い付けを破って怒らせたことだけ話して、彼に謝罪に行くのについてきてもらう事になり、私たちは広間の前で待ち合わせをしていた。
「……それで?何があったんだ?」
『――ハロウィンの日、覚えてる?トロールが入って来た日……』
「ん?あ、あぁ」
ゆっくりと話しだした私の言葉に、ドラコはハロウィンの事を思い出して苦虫を噛み潰したような顔をする。
そんなドラコを見て私は苦笑を浮かべつつも再び話し始めた。
『あの日ね、騒ぎの中心配になって教員席に私行ったんだけど……アルバスおじいちゃんがみんなに指示を出した後に、セブ先生が私に言ったの。“まっすぐに寮に帰れ”って……』
「まさかお前……その言い付けを守らなかったのか!?」
ドラコの言葉に一度だけ沈黙してから、ゆっくり頷いた。
そんな私の反応を見たドラコは信じられないと言いたげに目を見開いて私を凝視する。
「――何をしていたんだ?」
ドラコの、少しだけ冷たくなった声が私にそう問いかける。
その言葉に私は一度だけビクリと体を震わせたが、ゆっくり口を開いた。
『ハーマイオニーが、トイレにいて……ハリーとロンといっしょに、ハーマイオニーを助けに……』
「――随分な無茶をしたな」
私の言葉にドラコがそう言ってため息を吐いて私の頭を軽く撫でる。
そんなドラコにおずおずと顔を上げれば、ドラコは苦笑を浮かべて私を見ていた。
「先生を呼ぼうと思わなかったのか?」
『呼ぼうとしたけど……ハリーがそんな暇ないって……私も、そう思ったし』
「ポッターめ。……怪我は?お前は襲われなかったのか?」
『お、襲われたけど頑張って避けたし、ハリーやロンが庇ってくれたから、無い……』
「――そうか。怪我がないなら良かった」
ドラコはそう言って笑みを浮かべ、いまだに落ち込む私の背をぽんぽんと軽く叩いて落ちつけた。
そんなドラコを私は困惑の表情で見上げる。
『お、怒らないの……?』
「もう過ぎたことだ。それに、お前だってマクゴナガルやスネイプ先生に怒られて反省したんだろ?」
『…………。』
ドラコの言葉に、私はコクリと頷く。
いまだに引きずっている私を見て苦笑を浮かべながらもドラコは笑みを浮かべて私の頭を撫でる。
「マクゴナガルやスネイプ先生はなんて?」
『――母さんには、凄く怒られて、心配したって。……怪我がなくてよかったって……。セブ先生は、私が言いつけを守らなかったから……すっごい怒られて、怒鳴られた』
その時のことを思い出して、ふるりと体が震える。
そんな私を見て、ドラコが苦笑する。
「心配したんだろう、お前のこと。……もうそんな無茶するなよ?お前になにかあれば、マクゴナガルが倒れるぞ」
『ん……』
ドラコの言葉に私も小さく頷く。
「ったく、お前は間違いなくグリフィンドール生だよ。その猪突猛進なところとかな」
『……勇猛果敢、じゃなかったっけ……』
「どっちも似たような意味だろ」
『違うってことは理解してるんだ……』
「うるさい」
ドラコはそう言って私の額を小突いた。
そんなドラコに私も笑みを浮かべる。
私が笑ったのを確認すると、ドラコは何も言わずに私の手を引いて歩き出した。