雪月花
□雪月花
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これはもう昔のお話です
正しく言えば、昔から今に繋がるお話・・・
今からもう随分昔の戦国時代
“忍”と呼ばれるものが存在した時代
そんな時代の日本のとある国の君主には、それはそれは美しい奥方様がいらっしゃいました
正室であらせられる奥方様のその美しさは国をも揺るがすとされ、年々歳を取っていってもその美しさはいつまでも損なわれませんでした
そんな美しい奥方様にはいつも求婚の文が絶えなかったのですが、奥方様は君主様を深く愛しておられましたので、どんなに奥方にとって魅力的な内容のものでも全て切り捨てていました
君主様と奥方様は、毎日が幸せでした
民たちは仲睦まじいお二人のお姿に、いつやや子が生まれるかと楽しみにしていました
平和で、優しい民や動物、環境に囲まれていました
全てが、上手くいっていたのです
しかし、時は残酷なもの
平和な時間は長くは続きませんでした
戦国時代という時代で自国の国の頂点に立っていた君主様が、他国の武将に討たれてしまったのです
奥方は悲しみに明けくれました
炎に包まれ、略奪され、血を血で洗って行く他国の兵士に憎しみさえ湧きました
奥方は、このままこの国の君主に嫁いだ嫁として、愛した男と同じ場所に向かおうと思い死を覚悟しました
しかし、奥方が覚悟を決めて死を選ぼうとしたとき、奥方の耳に愛した男の“生きろ”という声が聞こえたような気がしました
その声に目が覚めた奥方は生きる道を再び選び、命からがらに城から逃げ出しました
しかし、女の足ではそう遠くは逃げられません
後ろから自分の命を狩ろうと敵国の兵士が追って来ています
敵に捕まったとしても、奥方の美貌さえあれば生きていけるという確信はありました
しかし、奥方にはそれは屈辱的なことで絶対にしたくない選択でした
苦渋の選択の末、奥方は自分の祖先の陰陽術師が残したといわれる禁術を使うことにしました
その禁術は、自分の残りの寿命の半分と引き換えに時代を渡ることが出来るというものでした
敵に身を売るよりも、今ここで死を選ぶよりも少しでも長く生きる事を選んだのです
奥方は自分の寿命の半分と引き換えに、生まれ育った自分の時代を捨てました
時代を超える術の渦の中で、奥方は自分が生まれ育った土地や父と母、そして君主様と出逢い、過ごした日々を思い涙しました
術の渦と悲しみの渦に己の身を奥方は沈めて行ったのです