旅人と龍2
□旅人と龍35
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〜B SIDE〜
目の前の黒いドラゴンに、俺は懸命に剣を振り下ろす。
背後では弟と可愛がっていた少年の亡骸を抱いたリオが、まるで気が狂ってしまったかのように泣き叫び続けている。
その悲痛な声にすぐにでも傍に行ってやりたいが、ここは今戦場だ。
それに、今俺がこのドラゴンを止めなければ・・・
確実にこの人型をしたドラゴンはリオの息の根を止めに行ってしまう。
それだけは何としても避けなければいけなかった。
否
それだけは、俺自身のためにも避けたかったのだ。
だからこそ、俺は剣をふるう。
そんな俺の背後を、あのディセリオンとかいうドラゴンが援護してくれて、動きやすいようにしてくれているために今はなんとかもっているが、このまま行けば確実に負けてしまうだろう。
それまでになんとか策を見つけたいが、残念ながら浮かばない。
しかし、このまま死にたくもない。
俺は焦燥感に駆られながらも必死に目の前で唸る黒いドラゴンと対峙する。
なんとかしなければ・・・
そう思っていると――
キィイイィイイイィイイッ!!
甲高い、古びた扉を開けた時になるようななんとも言えない軋んだ音に近い“声”が鳴り響く。
驚いて俺はディセリオンと共に顔を上げてその音のする方向を見ると、モルドールの方からあのドラゴンの成りそこないのような獣に乗ったナズグルたちがこちらに向かって来ていた。
「なっ・・・」
≪――まずいですね≫
思わず声を漏らして唖然とする俺と、同じように上空を見て眉間に皺を寄せるディセリオン。
そんな俺たちを見て、目の前の黒いドラゴンはそのリオにそっくりの顔をニヤリと笑みの形にする。
「一定時間までに決着がつかなければ出て来るようにアイツらには命じていた。そっちが本気ならこっちも本気ということだ」
そう言って笑う男に、俺は眉間に皺を寄せて唸る。
「今まで余裕を見せて来た割に、今回は随分と焦っているみたいだな。総勢力で俺たちを潰しにかかっているように見えるが?」
「あぁ・・・」
俺の言葉にそう息を漏らして男は笑う。
「今までの指揮官を任されてきた奴らは、“人”ではなかったからな。その異形さ故に、“人”の力を見下してきた。そしてその思い込みが、我らの軍を敗北に導いてきた。・・・だが、俺は違う」
男はそう言って、構えていた剣先を頭上に向ける。
「残念ながら、俺には“人”だった時の記憶がある。だから“人”の強さは怖いくらいに知ってるもんでな。それに、お前らの軍にはリオがいる。・・・アイツはまだまだ子供だが、そのカリスマ性と指導力は俺と同等かそれ以上だ。そんな強敵がいるというのに、手加減してしまえばこちらの身が滅ぶ。だからこそ、こちらも全力なんだよ・・・我が“義弟”よ」
男はそう言って笑ってから勢いよく剣を前方に振り下ろして声を上げた。
「行け、ナズグルの軍勢よっ!!愚かな人間たちに死の裁きをっ!!」
男の声に即発され、ナズグル達は勢いをつけて俺たちの軍に下降していく。
マズイッ!!
俺たちの軍はただでさえ少ないというのに、今上空からナズグルの攻撃を受ければ確実に敗戦する。
頼みの綱のドラゴンの軍勢も、相手のドラゴンの軍勢と戦っていて手が回らない上体だ。
背後にいるディセリオンだけでどうにかできる数でもない。
絶体絶命の状況に顔を青ざめさせていると、遠くから鷲の鳴き声が聞こえて来た。
驚いて顔を上げると、巨大な鷲が飛んできて俺たちに味方するようにナズグルの軍勢に向かって行っているのが見える。
「鷲だ・・・でっかい鷲だぁあっ!!」
その鷲の登場に、ピピンが嬉しそうに声を上げるのが聞こえた。
あれは・・・グワイヒア(大鷲)の軍勢か・・・!!
「――残念だったな、“義兄さん”。自慢の策も自然の生物相手には効かなかったらしい」
俺がそう言えば、目の前の男はギリッと奥歯を噛む。
そんな彼を見て、戦闘の再開だと言うかのように剣を振り上げれば――
ドォオオオォンッ
爆発音が聞こえ、リオが炎に包まれて燃えていた。