タイトル名入力

□きらめきに誘われて
1ページ/1ページ

キラキラと光る。

自分には縁のない話だと、薄目で眺める。
別に、興味がないわけではないのだ。
綺麗な物は好きだ。
ただ、寒くて動くのが面倒だ。
一人、カップルばかりの場に混じるつもりもない。

しかしまあひどく寒い。
この冬一番の寒さだと言っていてような気がする。
気のせいだっただろうか。

あまりの寒さに涙が出る。
ついでに鼻水も出そうだ。
汚い。

鼻をかもうとしてティッシュを取り出す。
しかしあまりの寒さに悴んだ指は機能を果たさなかった。
ポロリと零れるようにおちたティッシュを拾おうとしゃがみ込む。

これが失敗だった。

体を屈めると温かいのだ。
自分の体温が心地よい。
テッシュを拾ったものの、再び立ち上がることが出来なくなってしまった。

地面に直接尻をつけているわけではないので汚くない。
たぶん。

通りを歩く人々は好奇の目を向けながら去ってゆく。
たくさんの足が通り抜けていく。

どうしたものかと考えていたら、たくさんのうちの一つが目の前で止まった。

靴の先がこちらを向いている。

確かに道の途中でしゃがみ込んでいるのは珍しいかもしれないが、わざわざ止まってまで見る物だろうか。
道の真ん中に座っているわけでもないのに。

すこし不快感を覚えたが、何の反応も示さなければすぐに立ち去るだろうと思って放って置いた。

しかし一向に足は動く気配を見せない。

いい加減頭にきて、勢いよく顔を上げると見知った顔がそこにはあった。
赤い髪のムカつく顔。
ウォルターだ。

「なにやってんだ。」

馬鹿にしたように訪ねてきたので、お前には関係ないと返してやった。

しかしまあこいつも寂しい奴だ。
こんなカップルばかりの時期に一人だなんて。

「一人か?寂しい奴だな。」

…余計なお世話だ。
無言で睨み付ける。

ジッと見つめてきた。
何か言おうとしているようで、口を開けたり閉じたりしている。

いったい何なのだこいつは。
嫌味ならお断りだ。

そう言ってやった。

「ちげーよ馬鹿。俺は…」

風が吹いた。
飛び切り大きな、寒い北風。
通り抜ける音が大きくて、かすんでしまった。

でも確かに言っていたのだ。
目をそらして。
確かに聞こえたのだ。
消え入りそうな信じられないような言葉が。


は、と情けない声で聴き返すと、やっぱりこちらを見ないまま消え入りそうな声で呟いた。


「デートのお誘い。」

寒さで赤くした鼻がさらに赤くなっている。
恥ずかしくなるくらいなら言わなければいいものを。

けれど一人で勝手に赤くなっているこいつは、どうでもいいのだ。
本当に。

しかしまあ、キラキラと光る輝きを楽しむことも、
それもまあ悪くないかな、なんて、思ってしまったから。
だから、

「仕方ない。」

そう言って、中途半端に浮いた手を取ってやったのだ。

きらめきに誘われて

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ